比流王

 比流王は仇首王の第二子である。
 その性格は寛容にして慈悲深く、人をよく愛した。
 また力も強く、射撃の腕もよかった。
 長らく民間で生活をしていたが、当時からよい評判が巷に流れていた。
 汾西が死去したので後継者を選定する必要があったが、その子は皆まだ幼く擁立することができなかった。
 こういう次第で、臣民は彼を推戴して即位させたのである。

【五年】
[春正月丙子朔]。
 日食。

【九年】
[春二月]
 死者を出して百姓に疾苦があるか巡問した。
 其の孤児や独居老人から自活できない者に対して、一人につき穀物三石を賜った。
[夏四月]
 東明廟に謁見し、拜して解仇を兵官佐平に任命した。

【十年】
[春正月]
 南郊にて天地を祀り、王自ら生贄を裁いた。

【十三年】
[春]
 旱魃が起こった。
 大星が西に流れた。
[夏四月]
 王都の井水が溢れ、黒龍がその中に現れた。

【十七年】
[秋八月]
 宮西に射臺を築き、每朔を以て習射に望む。

【十八年】
[春正月]
 以て王の庶弟優福を內臣佐平と爲す。
[秋七月]
 太白晝に見る。
 國南蝗穀を害す。

【二十二年】
[冬十月]
 天に聲有り、風浪の如く相激し。

【十一月】
 王狗原北にて狩りをし、鹿を射止めた。

【二十四年】
[秋七月。
 雲が赤烏のように日を挟んで現れた。
[九月]
 內臣佐平の優福が北漢城を拠点にして叛乱を起こした。
 王は軍隊を発してそれを討たせた。

【二十八年】
[春夏]
 大旱魃が起こり、草木は枯れ、江水は枯渇した。
 秋七月なってようやく雨が降った。
 その年は飢饉が起こり、人が人に肉を互いに食い合った。

【三十年】
[夏五月]
 星が隕ってきた。
 王宮で火災が起こり、民家にまで延焼した。
[秋七月]
 宮室を修復した。
 拜して眞義を內臣佐平に任命した。
[冬十二月]
 雷が落ちた。

【三十二年】
[冬十月乙未朔]
 日食。

【三十三年】
[春正月辛巳]
 彗星が于奎に現れた。

【三十四年】
[春二月]
 新羅が使者を派遣して來聘した。

【四十一年】
[冬十月]
 王が死去した。

 

 戻る








 比流王、仇首王第二子。  性寬慈愛人、又强力善射。  久在民間、令譽流聞。  及汾西之終、雖有子皆幼不得立。  是以爲臣民推戴卽位。  五年、春正月丙子朔。  日有食之。  九年、春二月。  發使巡問百姓疾苦。  其鰥寡孤獨不能自存者、賜穀人三石。  夏四月。  謁東明廟、拜解仇爲兵官佐平。  十年、春正月。  祀天地於南郊、王親割牲。  十三年、春。  旱。  大星西流。  夏四月。  王都井水溢、黑龍見其中。  十七年、秋八月。  築射臺於宮西、每以朔望習射。  十八年、春正月。  以王庶弟優福爲內臣佐平。  秋七月。  太白晝見 國南蝗害穀。  二十二年、冬十月。  天有聲、如風浪相激。  十一月。  王獵於狗原北、手射鹿。  二十四年、秋七月。  有雲如赤烏夾日。  九月。  內臣佐平優福、據北漢城叛。  王發兵討之  二十八年、春夏。  大旱、草木枯、江水竭。  至秋七月乃雨。  年饑、人相食。  三十年、夏五月。  星隕。  王宮火、連燒民戶。  秋七月。  修宮室。  拜眞義爲內臣佐平。  冬十二月。  雷。  三十二年、冬十月乙未朔。  日有食之。  三十三年、春正月辛巳。  彗星見于奎。  三十四年、春二月。  新羅遣使來聘。  四十一年、冬十月。  王薨。

 比流王、仇首王の第二子なり。  性は寬慈にして人を愛し、又た力は强く善く射す。  久しく民間に在り、令譽を流聞す。  汾西の終に及び、子有ると雖も皆幼く立を得ず。  是を以て臣民推戴して卽位と爲す。  五年、春正月丙子朔。  日之れを食する有り。  九年、春二月。  使を發し百姓の疾苦を巡問す。  其の鰥寡孤獨自存に能はざる者、穀人三石を賜る。  夏四月。  東明廟に謁し、拜して解仇を兵官佐平と爲す。  十年、春正月。  南郊にて天地を祀り、王牲を親割す。  十三年、春。  旱あり。  大星西流す。  夏四月。  王都の井水溢れ、黑龍其の中に見(あらわ)る。  十七年、秋八月。  宮西に射臺を築き、每朔を以て習射に望む。  十八年、春正月。  以て王の庶弟優福を內臣佐平と爲す。  秋七月。  太白晝に見る。  國南蝗穀を害す。  二十二年、冬十月。  天に聲有り、風浪の如く相激し。  十一月。  王狗原北に獵り、鹿を手射す。  二十四年、秋七月。  雲赤烏の如く夾日有り。  九月。  內臣佐平優福、北漢城に據りて叛く。  王兵を發して之れを討たせしむ。  二十八年、春夏。  大旱、草木枯れ、江水竭く。  秋七月に至り乃ち雨る。  年饑え、人相食む。  三十年、夏五月。  星隕る。  王宮火、民戶を連燒す。  秋七月。  宮室を修む。  拜して眞義を內臣佐平と爲す。  冬十二月。  雷。  三十二年、冬十月乙未朔。  日之れを食す有り。  三十三年、春正月辛巳。  彗星于奎に見る。  三十四年、春二月。  新羅遣使して來聘す。  四十一年、冬十月。  王薨ず。