辰斯王

辰斯王

 辰斯王、近仇首王の仲子、枕流の弟である。
 人となりは強勇、聡明で知略が非常に富んでいた。
 枕流が死去したが太子が幼少であったため、叔父の辰斯が即位した。

 二年、春。
 國內人の年十五歲以上を徴発し、關防を儲けた。
 靑木嶺より北は距八坤城、西は海に至る。

 秋七月。
 霜が降り穀物を害した。

 八月。
 高句麗が侵攻しに来た。

 三年、春正月。
 拜して眞嘉謨を達率に任命し、豆知を恩率に任命した。

 秋九月。
 靺鞨と關彌嶺で戦ったが、勝てなかった

 五年、秋九月。
 王遣兵して、高句麗の南鄙に侵犯し、掠奪した。

 六年、秋七月。
 星孛、北河に現れた。

 九月。
 王は達率眞の嘉謨に命じ、高句麗を討伐し、都坤城を抜いて捕虜二百人を得た。
 王は拜して嘉謨を兵官佐平に任命した。

 冬十月。
 狗原で狩猟をし、七日して帰った。

 七年、春正月。
 宮室を重修し、池を穿ち山を造り、それで奇禽異卉を養った。

 夏四月。
 靺鞨が北鄙の赤峴城を陥落させた。

 秋七月。
 国西部の大島で狩りをし、王自ら鹿を射た。

 八月。
 また橫岳の西で狩りをした。

 八年、夏五月丁卯朔。
 日食。

 秋七月。
 高句麗王の談德が兵四万を統帥し、北鄙に攻め込んで、石峴等十城余りを陥落させた。
 王は談德の用兵が巧みであると聞いて、防衛に出撃しようとせず、漢水の北にある諸部落が数多く没された。

 冬十月。
 高句麗が攻め込み、關彌城を抜いた。
 王が狗原にて狩りをし、一旬(10日)しても帰らなかった。

 十一月。
 狗原の行宮にて死去した。

 

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≪白文≫
 辰斯王、近仇首王之仲子、枕流之弟。
 為人强勇、聰惠多智略。
 枕流之薨也、太子少、故叔父辰斯卽位。

 二年、春。
 發國內人年十五歲已上、設關防、自靑木嶺、北距八坤城、西至於海。

 秋七月。
 隕霜害穀。

 八月。
 高句麗來侵。

 三年、春正月。
 拜眞嘉謨為達率、豆知為恩率。

 秋九月。
 與靺鞨戰關彌嶺、不捷。

 五年、秋九月。
 王遣兵、侵掠高句麗南鄙。

 六年、秋七月。
 星孛于北河。

 九月。
 王命達率眞嘉謨、伐高句麗、拔都坤城、虜得二百人。
 王拜嘉謨為兵官佐平。

 冬十月。
 獵於狗原、七日乃返。

 七年、春正月。
 重修宮室、穿池造山、以養奇禽異卉。

 夏四月。
 靺鞨攻陷北鄙赤峴城。

 秋七月。
 獵國西大島、王親射鹿。

 八月。
 又獵橫岳之西。

 八年、夏五月丁卯朔。
 日有食之。

 秋七月。
 高句麗王談德、帥兵四萬、來攻北鄙、陷石峴等十餘城。
 王聞談德能用兵、不得出拒、漢水北諸部落、多沒焉。

 冬十月。
 高句麗攻拔關彌城。
 王田於狗原、經旬不返。

 十一月。
 薨於狗原行宮。



≪書き下し文≫
 辰斯王、近仇首王の仲子、枕流の弟なり。
 人となりは强勇、聰惠にして智略多し。
 枕流の薨ずるや、太子少(おさ)なく、故に叔父辰斯卽位す。

 二年、春。
 國內人の年十五歲已上を發し、關防を設くること靑木嶺より北は距八坤城、西は海に至る。

 秋七月。
 霜隕り穀を害す。

 八月。
 高句麗侵に來たる。

 三年、春正月。
 拜して眞嘉謨を達率と為し、豆知を恩率と為す。

 秋九月。
 靺鞨と關彌嶺に戰ひ、捷(か)たず。

 五年、秋九月。
 王遣兵して、高句麗の南鄙を侵掠す。

 六年、秋七月。
 星孛、北河にあり。

 九月。
 王達率眞の嘉謨に命じ、高句麗を伐ち、都坤城を拔き、虜二百人を得。
 王は拜して嘉謨を兵官佐平と為す。

 冬十月。
 狗原にて獵り、七日して乃ち返る。

 七年、春正月。
 宮室を重修し、池を穿ち山を造り、以て奇禽異卉を養ふ。

 夏四月。
 靺鞨北鄙赤峴城を攻め陷す。

 秋七月。
 國西の大島に獵り、王親(みずか)ら鹿を射る。

 八月。
 又た橫岳の西にて獵る。

 八年、夏五月丁卯朔。
 日之れを食する有り。

 秋七月。
 高句麗王談德、兵四萬を帥(ひき)い、北鄙に攻めに來たる、石峴等十餘城を陷す。
 王談德の能く兵を用ふることを聞き、出拒を得ず、漢水北諸部落、沒すること多し。

 冬十月。
 高句麗攻め關彌城を拔く。
 王狗原にて田(か)り、旬を經ても返らず。

 十一月。
 狗原の行宮にて薨ず。