車騎

 眞骨については、車の材料に紫檀沉香を用いず、帖に玳瑁を使わず、同様に金銀玉で装飾しようとせず、褥子には綾絹以下を用い、二重を過ぎることはなく、坐子には鈿錦二色綾以下を用い、緣には錦以下を用い、前後の幰は小文綾紗絁以下を用い、着色には深靑碧と紫の紫粉を用い、絡網には糸麻を用い、着色には紅緋と翠碧を用い、表面を飾り付けようとする際には絹布を用い、着色には紅緋と靑縹を用い、牛勒と鞅には絁絹布を用い、環には金銀鍮石が禁じられ、步搖も同様に金銀鍮石が禁じられている。

 六頭品については、褥には絁絹以下を用い、坐子には絁絹布を用い、縁はない。前後の幌はついては、もし眞骨以上の貴人が行隨の際には設けず、ただ自ら行く際には竹簾や若莞の席を用い、縁には絁絹以下を用い、絡網には布を用い、着色は赤青を用い、牛勒と鞅には布を用い、環には鍮銅鐵を用いる。

 五頭品については、褥子は毛氈か若布のみを用い、前後の幌には竹簾か莞席のみを用い、縁には皮布を用い、勒鞅に麻を用いてはならず、環には木と鐵を用いる。

 眞骨については、鞍橋に紫檀沉香が禁じられ、鞍韉には罽繡錦羅が禁じられ、鞍坐子には罽繡羅が禁じられ、障泥にはただ麻油染のみを用い、銜鐙には金鍮石鍍金綴玉が禁じられ、靷鞦には組及び紫絛が禁られる。

 眞骨の女については、鞍橋には寶鈿が禁じられ、鞍韉鞍坐子には罽羅が禁じられ、脊雜(一説には脊と云う)には罽繡羅が禁じられ、銜鐙には褁金綴玉が禁じられ、靷鞦には雜金銀絲組が禁じられる。

 六頭品については、鞍橋には紫檀沉香黃楊槐柘及び金綴玉が禁じられ、鞍韉には皮を用い、鞍坐子には綿紬絁布皮を用い、障泥には麻油染を用い、銜鐙には金銀鍮石及び鍍金銀綴玉が禁じられ、靷鞦には皮麻を用いる。

 六頭品の女については、鞍橋には紫檀沉香及び褁金綴玉が禁じられ、鞍坐子には罽繡が禁じられ、羅については繐羅が禁じられ、替脊には綾絁絹を用い、銜鐙には金銀鍮石及び鍍金銀綴玉が禁じられ、障泥には皮を用い、靷鞦に用いるにあたっては組を用いない。

 五頭品については、鞍橋には紫檀沉香黃楊槐柘が禁じられ、同様に金銀鐵玉を用いることができず、鞍韉には皮を用い、障泥には麻油染を用い、銜鐙には金銀鍮石が禁じられ、同様に鍍鏤金銀は用いることができず、靷鞦には麻を用いる。

 五頭品の女については、鞍橋には紫檀沉香が禁じられ、また金銀玉で装飾することは禁じられ、鞍韉と鞍坐子には罽繡錦、綾羅、虎の皮が禁じられ、銜鐙には金銀鍮石が禁じられ、また金銀で装飾することも禁じられ、障泥には皮を用い、靷鞦には組及び紫の紫粉や暈絛が禁じられている。

 四頭品から百姓までについて、鞍橋には紫檀沉香黃楊槐柘が禁じられ、また金銀玉での装飾が禁じられ、鞍韉には牛馬の皮を用い、鞍褥には皮を用い、障泥には楊竹を用い、銜には鐵を用い、鐙には木と鐵を用い、靷鞦には筋や若麻を用いて絞とする。

 四頭品の女から百姓の女について、鞍橋には紫檀沉香黃楊槐が禁じられ、また金銀玉での装飾が禁じられ、鞍韉鞍坐子には罽繡、錦羅、繐羅、綾、虎皮が禁じられ、銜鐙には金銀鍮石が禁じられ、また金銀での装飾が禁じられ、障泥には皮のみを用い、靷鞦には組及び紫紫粉暈絛が禁じられる。

 眞骨については、金銀及び鍍金が禁じられている。


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≪白文≫
 眞骨、車材不用紫檀沉香、不得帖玳瑁、亦不敢飾以金銀玉、褥子用綾絹已下、不過二重、坐子用鈿錦二色綾已下、緣用錦已下、前後幰用小文綾紗絁已下、色以深靑碧紫紫粉、絡網用糸麻、色以紅緋翠碧、粧表且用絹布、色以紅緋靑縹、牛勒及鞅用絁絹布、環禁金銀鍮石、步搖亦禁金銀鍮石。
 六頭品、褥者用絁絹已下、坐子用絁絹布、無緣、前後幰若隨眞骨已上貴人行則不設、但自行則用竹簾若莞席、緣以絁絹已下、絡網用布、色以赤靑、牛勒及鞅用布、環用鍮銅鐵
五頭品、褥子只用氈若布、前後幰只用竹簾莞席、緣以皮布、無勒鞅用麻、環用木鐵
眞骨、鞍橋禁紫檀沉香、鞍韉禁罽繡錦羅、鞍坐子禁罽繡羅、障泥但用麻油染、銜鐙禁金鍮石鍍金綴玉、靷鞦禁組及紫絛。
 眞骨女、鞍橋禁寶鈿、鞍韉鞍坐子禁罽羅、脊雜【一云脊】禁罽繡羅、銜鐙禁褁金綴玉、靷鞦禁雜金銀絲組。
 六頭品、鞍橋禁紫檀沉香黃楊槐柘及金綴玉、鞍韉用皮、鞍坐子用綿紬絁布皮、障泥用麻油染、銜鐙禁金銀鍮石及鍍金銀綴玉、靷鞦用皮麻。
 六頭品女、鞍橋禁紫檀沉香及褁金綴玉、鞍坐子禁罽繡禁羅繐羅、替脊用綾絁絹、銜鐙禁金銀鍮石及鍍金銀綴玉、障泥用皮、靷鞦用不用組。
 五頭品、鞍橋禁紫檀沉香黃楊槐柘、亦不得用金銀鐵玉、鞍韉用皮、障泥用麻油染、銜鐙禁金銀鍮石、又不得鍍鏤金銀、靷鞦用麻。
 五頭品女、鞍橋禁紫檀沉香、又禁飾以金銀玉、鞍韉鞍坐子禁罽繡錦綾羅虎皮、銜鐙禁金銀鍮石、又禁飾以金銀、障泥用皮、靷鞦禁組及紫紫粉暈絛。
 四頭品至百姓、鞍橋禁紫檀沉香黃楊槐柘、又禁飾以金銀玉、鞍韉用牛馬皮、鞍褥用皮、障泥用楊竹、銜用鐵、鐙用木鐵、靷鞦用筋若麻爲絞。
 四頭品女至百姓女、鞍橋禁紫檀沉香黃楊槐、又禁飾金銀玉、鞍韉鞍坐子禁罽繡錦羅繐羅綾虎皮、銜鐙禁金銀鍮石、又禁飾金銀、障泥但用皮、靷鞦禁組及紫紫粉暈絛。
 眞骨、禁金銀及鍍金。


≪書き下し文≫
 眞骨、車の材に紫檀沉香を用いず、帖に玳瑁を得ず、亦た飾るに金銀玉を以てすることは敢へてせず、褥子に綾絹已下を用い、二重を過ぐることなく、坐子は鈿錦二色綾已下を用い、緣は錦已下を用い、前後の幰は小文綾紗絁已下を用い、色は深靑碧と紫紫粉を以てし、絡網は糸麻を用い、色は紅緋と翠碧を以てし、表を粧(よそ)はむとすれば且(まさ)に絹布を用いむとし、色は紅緋と靑縹を以てし、牛勒及び鞅は絁絹布を用い、環は金銀鍮石を禁じ、步搖も亦た金銀鍮石を禁ず。
 六頭品、褥者は絁絹已下を用い、坐子は絁絹布を用い、緣無し、前後の幰は若し眞骨已上の貴人の行に隨へば則ち設けず、但だ自ら行かば則ち竹簾と若莞の席を用い、緣は絁絹已下を以てし、絡網は布を用い、色は赤靑を以てし、牛勒及び鞅は布を用い、環は鍮銅鐵を用ゆ。
 五頭品、褥子は只だ氈若布のみを用い、前後の幰は只だ竹簾と莞席を用い、緣は皮布を以てし、勒鞅に麻を用ゆること無く、環に木と鐵を用ゆ。
 眞骨、鞍橋に紫檀沉香を禁じ、鞍韉に罽繡錦羅を禁じ、鞍坐子に罽繡羅を禁じ、障泥は但だ麻油染のみを用い、銜鐙は金鍮石鍍金綴玉を禁じ、靷鞦は組及び紫絛を禁ず。
 眞骨の女、鞍橋は寶鈿を禁じ、鞍韉鞍坐子は罽羅を禁じ、脊雜、一に脊と云ふ、は罽繡羅を禁じ、銜鐙は褁金綴玉を禁じ、靷鞦は雜金銀絲組を禁ず。
 六頭品、鞍橋は紫檀沉香黃楊槐柘及び金綴玉を禁じ、鞍韉は皮を用い、鞍坐子は綿紬絁布皮を用い、障泥は麻油染を用い、銜鐙は金銀鍮石及び鍍金銀綴玉を禁じ、靷鞦は皮麻を用ゆ。
 六頭品の女、鞍橋は紫檀沉香及び褁金綴玉を禁じ、鞍坐子に罽繡を禁じ、羅に繐羅を禁ぜしめ、替脊は綾絁絹を用い、銜鐙は金銀鍮石及び鍍金銀綴玉を禁じ、障泥は皮を用い、靷鞦に用ふるは組を用ひず。
 五頭品、鞍橋は紫檀沉香黃楊槐柘を禁じ、亦た金銀鐵玉を用ゆるを得ず、鞍韉は皮を用い、障泥は麻油染を用い、銜鐙は金銀鍮石を禁じ、又た鍍鏤金銀を得ず、靷鞦は麻を用ゆ。
 五頭品の女、鞍橋は紫檀沉香を禁じ、又た飾るに金銀玉を以てするを禁じ、鞍韉鞍坐子は罽繡錦綾羅虎皮を禁じ、銜鐙は金銀鍮石を禁じ、又た飾るに金銀を以てするを禁じ、障泥は皮を用い、靷鞦は組及び紫紫粉暈絛を禁ず。
 四頭品至(ないし)百姓、鞍橋は紫檀沉香黃楊槐柘を禁じ、又た飾るに金銀玉を以てするを禁じ、鞍韉は牛馬の皮を用い、鞍褥は皮を用い、障泥に楊竹を用い、銜に鐵を用い、鐙に木と鐵を用い、靷鞦に筋、若麻を用いて絞と爲す。
 四頭品の女至(ないし)百姓の女、鞍橋は紫檀沉香黃楊槐を禁じ、又た金銀玉を飾るを禁じ、鞍韉鞍坐子に罽繡錦羅繐羅綾虎皮を禁じ、銜鐙に金銀鍮石を禁じ、又た金銀を飾るを禁じ、障泥は但だ皮のみを用い、靷鞦は組及び紫紫粉暈絛を禁ず。
 眞骨、金銀及び鍍金を禁ず。