元氣判混渾 | |
元 の氣、混渾に 判 ち | |
万物の根元たる氣は、混渾へ分裂し、 |
天皇地皇氏 | |
天皇と地皇氏は | |
天皇と地皇には、 |
十三十一頭 | |
十三と十一の 頭 あり | |
それぞれ十三と十一の頭があり、 |
體貌多奇異 | |
體貌 に 奇 異 多し | |
體貌 に 奇異 は多く、 |
其餘聖帝王 | |
其の餘の聖なる帝王も | |
それ以外の聖なる帝王も、 |
亦備載經史 | |
亦た備はること經史に載る | |
同じく 奇異 を備えていたと経典や史伝に載っている。 |
女節感大星 | |
女、 節 に大星を感じ | |
女が大星に感応すると、 |
乃生大昊摯 | |
乃 ち大昊摯を生ず | |
大昊摯が産まれた。 |
女樞生顓頊 | |
女樞、顓頊を生ずるとき | |
女樞が顓頊を産んだときも、 |
亦感瑤光暐 | |
亦た瑤光暐を感ず | |
同様に瑤光暐に感応した。 |
伏羲制牲犧 | |
伏羲、牲犧を制し | |
伏羲は生贄の儀式を取り決め、 |
燧人始鑽燧 | |
燧人、 鑽燧 を始む | |
燧人は 鑽 ではじめて火をおこした。 |
生蓂高帝祥 | |
蓂を生ずるは、高帝の 祥 | |
蓂莢が生えるのは、堯帝の 祥 。 |
雨粟神農瑞 | |
粟を 雨 らすは、神農の 瑞 | |
粟の雨が降るのは、神農の 瑞 。 |
靑天女媧補 | |
天を靑くするは女媧の 補 | |
天を青くするのは女媧の 補 。 |
洪水大禹理 | |
洪水、大禹 理 め | |
洪水は大禹が治めた。 |
黃帝將升天 | |
黃帝將に天に升らむとすれば | |
黃帝が天に昇ろうとすれば、 |
胡髥龍自至 | |
胡髥 の龍、自ら至る | |
胡髥 を生やしたの龍が、自らやってきた。 |
太古淳朴時 | |
太古の淳朴なる時 | |
太古の淳朴な時代には、 |
靈聖難備記 | |
靈聖、記を備ふること難し | |
靈聖について、記録を備えることは難しく、 |
後世漸澆漓 | |
後世、漸し 澆漓 たり | |
後世に降れば、徐々に道徳が廃れ、 |
風俗例汰侈 | |
風俗、汰侈を 例 す | |
風俗も過ぎた文飾が当たり前になってしまったので、 |
聖人間或生 | |
聖人、 間 生ずること 或 らねども | |
聖人がたまに生まれることはあるかもしれないが、 |
神迹少所示 | |
神の 迹 、示す所は少なし | |
神異の 迹 が示されることは少なくなってしまった。 |
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漢神雀三年 | |
漢神雀三年 | |
漢神雀三年 |
孟夏斗立已 | |
孟夏斗立已 | |
孟夏斗立已 |
海東解慕漱 | |
海東 の 解慕漱 | |
海東の 解慕漱 |
眞是天之子 | |
眞 是れ天 之 子 ぞ | |
まさしく彼は天の子である。 | |
初從空中下 | |
初め空中 從 り下るに | |
さて、空の中から下りし時、 | |
身乘五龍軌 | |
身は五龍の 軌 に乘り | |
自身は五頭の龍が引く御車に乗り、 | |
從子百餘人 | |
從子 は百餘人 | |
百人余りの従者は、 | |
騎鵠紛襂襹 | |
鵠 に 騎 り 襂襹 を 紛 | |
白鳥に 騎 り、垂れ下がる羽毛を縺れ合わせ、 | |
淸樂動鏘洋 | |
淸らなる樂、 動 こと 鏘 洋 たり | |
清らかな楽が甲高く洋々と鳴り響き、 | |
彩雲浮旖旎 | |
彩 の雲、浮かぶこと 旖旎 き | |
七色の雲が風になびきながら美しく浮かんでいた。 | |
自古受命君 | |
古 自 命を君に受く | |
古来より、天命は君主に授けられてきたのだ。 | |
何是非天賜 | |
何ぞ是れ天の 賜 に非ざりき | |
これも天からの賜物でないと、なぜ言えるのだ。 | |
白日下靑冥 | |
白 日、靑き 冥 を下し | |
潔白の太陽から青色の冥が下り、 | |
從昔所未視 | |
昔の未だ視ざる所に 從 り | |
いまだかつて見たことのない場所から、 | |
朝居人世中 | |
朝 、人を世の 中 に 居 らせむるも | |
朝、人々を世の中に居らせたが、 | |
暮反天宮裡 | |
暮 、 天 の 宮 の 裡 に 反 らむ | |
暮、天宮の中まで引き返したという。 | |
吾聞於古人 | |
吾は 古 の人 於 聞けり | |
私がいにしえの人から聞いたこと。 | |
蒼穹之去地 | |
蒼 き 穹 之 去 の地 | |
蒼穹の最果ての地は、 | |
二億萬八千 | |
二億萬八千 | |
二億一萬八千と、 | |
七百八十里 | |
七百八十里 | |
七百八十里離れ、 | |
梯棧躡難升 | |
梯棧 は 躡 めども升り難く | |
梯子を架けて昇ろうにも昇れず、 | |
羽翮飛易悴 | |
羽 の 翮 り飛べども 悴 み易し | |
翼を翮して飛ぼうにもたどり着くことはできない。 | |
朝夕恣升降 | |
朝も 夕 も 恣 に 升 降 | |
朝も夕もなく、ほしいままに昇り降るとは、 | |
此理復何爾 | |
此の理、復た何ぞ 爾 らむ | |
どんな理力で、このようにしているのか。 | |
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城北有靑河 | |
城の北に靑河有り | |
城の北には青河がある。 | |
河伯三女美 | |
河伯の 三 の 女 は美しからむ | |
河伯の三人の娘は美しく、 | |
擘出鴨頭波 | |
擘 きて鴨頭の波に出で | |
鴨頭の波を劈いて飛び出し、 | |
往遊熊心涘 | |
往きて熊心の 涘 に遊べば | |
熊心の水辺に遊んでいると、 | |
鏘琅佩玉鳴 | |
鏘琅たる佩玉の 鳴 | |
佩玉が触れ合い、音は美しく鳴り響き、 | |
綽約顔花媚 | |
綽約 なる顔は 花 しく 媚 く | |
たおやかなる顔は華麗でありながらかわいらしく、 | |
初疑漢皐濱 | |
初め疑うらくは漢の 皐濱 | |
はじめはまるで漢の沢浜のようだと思い、 | |
復想洛水沚 | |
洛水の 沚 を 復想 す | |
洛水の 沚 を想い出した。 | |
王因出獵見 | |
王、獵に出ずるに因りて見ゆれば | |
王が狩りに出たとき、そこに現れ、 | |
目送頗留意 | |
目の送ること頗る意に留まるも | |
目の送ること頗る 意 に留まったが、 | |
玆非悅紛華 | |
玆 紛華 なることを悅ぶに非ず | |
その光景の 紛華 さを悦ぶことなく、 | |
誠急生斷嗣 | |
誠に斷嗣を生むことを急ぐ | |
まだなき後継ぎを生ませようと急ぐばかり。 | |
三女見君來 | |
三 の 女 、君の來たるを見 | |
三人の娘は、君が来たのを見ると、 | |
入水尋相避 | |
水に入りて 尋 相ひ 避 るる | |
川に飛び込んでそのまま皆で逃げ出した。 | |
擬將作宮殿 | |
將に 宮殿 を 作 さむと 擬 り | |
これから宮殿を作ろうと図り、 | |
潛候同來戱 | |
潛 かに同じく戱れに來たるを 候 はむと | |
先ほどのように戱れに来るのをこっそりと伺いながら、 | |
馬過一畫地 | |
馬、一畫の地を過ぐれば | |
馬が一画の地を過ぎたところ、 | |
銅室欻然峙 | |
銅室、 欻然 峙 ち | |
銅室が欻然とそばだち、 | |
錦席鋪絢明 | |
錦席は絢明を 鋪 め | |
錦の席には絢明が敷き詰められ、 | |
金罇置淳旨 | |
金 の 罇 に 淳旨 を置き | |
金の酒樽には清酒が満たされ、 | |
蹁躚果自入 | |
蹁躚 にして果たして自ら入り | |
千鳥足になりながら果たして自ら入ると、 | |
對酌還徑醉 | |
酌に 對 へて醉に還り徑らむ | |
お酌に応えるうちにまたしても酔っ払ってしまった。 | |
君是上帝胤 | |
君是れ上帝の 胤 ならば | |
「君よ、あなた様が上帝の 胤 ならば、 | |
神變請可試 | |
神變、試す可けむと請へり | |
神変を試させていただきたい。」 | |
漣漪碧波中 | |
漣漪 碧波 の 中 | |
漣漪 と 碧波 の 中 で、 | |
河伯化作鯉 | |
河伯は化して鯉と 作 れば | |
河伯が化して鯉となれば、 | |
王尋變爲獺 | |
王も 尋 變じて 獺 と爲り | |
王もすぐさま変じて 獺 となり、 | |
立捕不待跬 | |
立ちて捕ふること跬を待た 不 | |
立って捕えるまでに半歩も行かなかった。 | |
又復生兩翼 | |
又た 兩 の 翼 を 復 生やし | |
また両翼を 復 生やし、 | |
翩然化爲雉 | |
翩然と化して雉と爲れば | |
翩然と化して雉となれば、 | |
王又化神鷹 | |
王も又た神鷹と化し | |
王もまた神鷹と化し、 | |
搏擊何大鷙 | |
搏 擊 つは何ぞ 大鷙 ならむか | |
はばたき擊てば、まるで 大鷙 のよう。 | |
彼爲鹿而走 | |
彼の鹿と爲り 而 走らば | |
彼が鹿となって走り逃げれば、 | |
我爲豺而進 | |
我も 豺 と爲り 而 進む | |
我も 豺 となって進み捕らえる。 | |
河伯知有神 | |
河伯、神有るを知り | |
神なることを悟った河伯は、 | |
置酒相燕喜 | |
酒を置きて相ひ 燕 喜べり | |
酒を置いて互いにくつろぎ宴喜した。 | |
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伺醉載革輿 | |
醉 を伺ひて 革 の 輿 に載せ | |
酔っぱらったところを見計らい、 革 の 輿 に載せてやり、 | |
幷置女於輢 | |
幷びて 女 を 輢 於 置くは | |
娘を 輢 に並べて置いた。 | |
意令與其女 | |
意 に其の女と 與 にせ 令 めむとせむ | |
自らの娘とつがわせようと思い、 | |
天上同騰轡 | |
天上と 轡 を 騰 ぐるを同じくするも | |
轡 を天上と同じ高さに 騰 げようとしたが、 | |
其車未出水 | |
其の車の未だ水に出でずして | |
その車が水から出る前に、 | |
酒醒忽驚起 | |
酒 醒 めれば 忽 ち驚き起き | |
酒は醒めて 忽 ち驚き起き、 | |
取女黃金釵 | |
女の 黃金 の 釵 を取り | |
娘の 黄金 の 釵 を手に取り、 | |
剌革從竅出 | |
革に剌して 竅 に 從 りて出ず | |
革に剌して 竅 から出ると、 | |
獨乘赤霄上 | |
獨り赤き 霄 の上に 乘 り | |
独り真っ赤に染まった大空より上まで昇り、 | |
寂寞不廻騎 | |
寂寞として 廻 り 騎 ること 不 ず。 | |
寂寞として二度と輿まで舞い戻ることはなかった。 | |
河伯責厥女 | |
河伯、 厥 の 女 を責め | |
河伯、その娘を責め、 | |
挽吻三尺弛 | |
吻 を 挽 けば三尺に弛み | |
唇を 挽 くと三尺の長さに伸びきってしまった。 | |
乃貶優渤中 | |
乃ち優渤の中に 貶 し | |
そのまま優渤の中に叩き落とし、 | |
唯與婢僕二 | |
唯だ婢僕の 二 のみを 與 ゆ | |
婢僕二人を与えるのみであった。 | |
漁師觀波中 | |
漁師、波中を觀れば | |
漁師が波の中を観ていると、 | |
奇獸行𩣚騃 | |
奇 獸 行 こと𩣚騃たり | |
奇獣が 𩣚騃 と動いていた。 | |
乃告王金蛙 | |
乃ち王の 金蛙 に告げ | |
すぐに王の 金蛙 に報告し、 | |
鐵網投湀湀 | |
鐵 の網投げ湀湀とし | |
鐵 の網を湀湀と投げ、 | |
引得坐石女 | |
引きて坐する石の女を得 | |
引いてみると座った石の女が引っかかっていた。 | |
姿貌甚堪畏 | |
姿貌 甚だ 畏 るるに堪る | |
姿貌 はひどく 畏 るるに堪るもので、 | |
唇長不能言 | |
唇 長く言ふに能は 不 も | |
唇 が長く喋ることができなかったので、 | |
三裁乃啓齒 | |
三 裁てば乃ち齒 啓 けり | |
三度にわたって断ち切ると、そこで歯が開いて見えた。 | |
王知慕潄妃 | |
王、 慕潄 の 妃 と知り | |
王は 慕潄 の妃 と知り、 | |
仍以別宮置 | |
仍りて別宮を以て置く | |
別宮に隔離することにした。 | |
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懷日生朱蒙 | |
日を懷きて朱蒙を生む | |
太陽を懐に抱いて朱蒙を生み、 | |
是歲歲在癸 | |
是の歲、歲は癸に在り | |
この歲、歲は 癸 にあり。 | |
骨表諒最奇 | |
骨表、 諒 にして最も 奇 | |
顔立ちは 諒 であり、人相は奇 しきことそのもの。 | |
啼聲亦甚偉 | |
啼聲 も亦た甚だ 偉 | |
啼き声も遥かに 偉 れ、 | |
初生卵如升 | |
初め卵を生むこと 升 の如し | |
最初に 升 のような卵を生んだとき、 | |
觀者皆驚悸 | |
觀る者、皆 驚悸 | |
観る者皆が度肝を抜かされて驚き、 | |
王以爲不祥 | |
王 以爲 らく不祥たり | |
王が考えるには「不祥である。 | |
此豈人之類 | |
此れ豈に人 之 類か、と | |
こやつが人類であろうか。」 | |
置之馬牧中 | |
之れを馬の 牧 の中に置かば | |
それを馬の牧場の中に置くと、 | |
群馬皆不履 | |
群 馬は皆が履むこと 不 し | |
馬の群れの誰も踏む者はなく、 | |
棄之深山中 | |
之れを深き山の中に棄つれば | |
それを深い山の中に棄てれば、 | |
百獸皆擁衛 | |
百 の 獸 は皆が擁衛 | |
あらゆる獣皆が取り囲んで護った。 | |
母姑擧而養 | |
母姑擧げ 而 養ひ | |
母姑が取り挙げて養い、 | |
經月言語始 | |
月を經れば 言 の 語 を始む | |
一月も経てば言葉を語り始め、 | |
自言蠅噆目 | |
自ら言へるに蠅は目を 噆 り | |
自ら言ったことに、「蠅が目を 噆 るので、 | |
臥不能安睡 | |
臥しても安睡すること能は 不 | |
横になっても安眠することができません。」 | |
母爲作弓矢 | |
母は 爲 にして弓矢を 作 り | |
母は朱蒙のために弓矢を作った。 | |
其弓不虛掎 | |
其の弓、 掎 を虛しくすること 不 し | |
その弓を引けば、命中しないことはなかった。 | |
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年至漸長大 | |
年至り漸し長大たり | |
年を経るごとに身体は少しずつ大きくなり、 | |
才能日漸備 | |
才能日に漸し備はり | |
才能は日に少しずつ備わり、 | |
扶余王太子 | |
扶余王の太子 | |
扶余王の太子、 | |
其心生妬忌 | |
其の心に 妬忌 を生ぜり | |
その心に 妬忌 を生じ、 | |
乃言朱蒙者 | |
乃 ち朱蒙と言ふ者 | |
「つまり、朱蒙という者は、 | |
此必非常士 | |
此れ必ず非常の士 | |
非常の士に違いなく、 | |
若不早自圖 | |
若し自らの圖するを早くせ 不 れば | |
早く私の言う通りにしなければ、 | |
其患誠未已 | |
其の 患 は誠に未だ 已 まざりき、と | |
その 患 は今後とも已むことはないでしょう。」 | |
王令往牧馬 | |
王牧馬に往かせ 令 め | |
王は馬の牧場に往かせることで、 | |
欲以試厥志 | |
以て 厥 の志を試さむと欲せり | |
その志を試そうとした。 | |
自思天之孫 | |
自ら天 之 孫と思へば | |
自ら天の孫と思えば、 | |
厮牧良可恥 | |
牧 に 厮 するは良く恥ず可し | |
牧場の 厮 となることは、とても恥ずべきことで、 | |
捫心常竊導 | |
心を 捫 し常に竊かに 導 るは | |
心を 捫 して、いつも竊かに語っていた。 | |
吾生不如死 | |
吾の生くるは死ぬに如か 不 りき | |
「私にとっては生きるよりも死ぬ方がマシだ。 | |
意將往南土 | |
意 將 に南の土に往き | |
私の 意 としては、これから南の土地に往き、 | |
立國入城市 | |
國を立て城市に入らむとするも | |
国を立て城市に入りたいものであるが、 | |
爲緣慈母在 | |
慈母の 在 まするに緣るが 爲 | |
慈母が在世されるから、 | |
離別誠未易 | |
離別すること誠に未だ易からず | |
そうそう離別することはできないのだ。」 | |
其母聞此言 | |
其の母、此の 言 を聞き | |
その言葉を聞いた彼の母は、 | |
潛然杖淸淚 | |
潛然として淸らなる淚を杖(?) | |
ひそかに清らかな涙を流した。 | |
汝幸勿爲念 | |
汝の 幸 するに 念 を爲すこと勿れ | |
「お前の出幸するのなら、気にかけることはありません。 | |
我亦常痛痞 | |
我も亦た常に痛み 痞 げり | |
私だっていつも心が痛み塞いでいるのです。 | |
土之涉長途 | |
土 之 長き 途 を涉らば | |
土地をゆく長き 途 を涉るには、 | |
須必馮騄駬 | |
須く必ず騄駬に馮 むべし、と | |
騄駬に頼るしかありません。」 | |
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相將往馬閑 | |
相ひ將に 馬閑 に往かむとし | |
こうして、厩に行こうとして、 | |
卽以長鞭捶 | |
卽ち長鞭を以て捶 たば | |
長鞭を振るったその時、 | |
群馬皆突走 | |
群馬は皆突き走るも | |
群馬の皆が突っ走ったが、 | |
一馬騂色斐 | |
一 の馬は 騂 色の 斐 | |
一匹の 騂 く美しい馬だけが、 | |
跳過二丈欄 | |
二丈の欄を跳ね過えて | |
二丈の欄を跳び超えて、 | |
始覺是駿驥 | |
始めて覺むるや是れ駿驥たり | |
これが駿驥であると始めて気づいた。 | |
潛以針自舌 | |
潛かに針を以て自らの舌にし | |
こっそりと針を馬の舌に刺し、 | |
酸痛不受飼 | |
酸痛 飼 を受け 不 りて | |
痛みが疼いて飼料を食べられず、 | |
不日形甚癙 | |
日 の形なら 不 甚だ 癙 | |
日に日に元の姿を失い、ひどく痩せ衰えてゆき、 | |
却與駑駘似 | |
却 きは駑駘 與 似たり | |
のろまさは駑駘と似たり。 | |
爾後王巡觀 | |
爾る後に王の巡り觀れば | |
その後、王が巡り観たとき、 | |
予馬此卽是 | |
予の馬此れ卽ち是れなり、と | |
「これを私の馬にします。」 | |
得之始抽針 | |
之れを得て始めて針を 抽 き | |
それを手に入れてからはじめて針を 抽 き、 | |
日夜屢加餧 | |
日夜 屢 餧 を加ゆ | |
日夜頻繁に 餧 を与えた。 | |
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暗結三賢友 | |
暗 かに結ぶは 三 の賢友 | |
ひそかに三人の賢友と結んだ。 | |
其人共多智 | |
其の人共に智多し | |
彼らは皆が智多し。 | |
南行至淹滯 | |
南に行きて淹滯まで至り | |
南に進んで淹滯までたどり着き、 | |
欲渡無舟艤 | |
渡らむと欲するも舟 艤 無し | |
渡ろうとしたけど、 舟艤 がなく、 | |
秉策指彼蒼 | |
策 を 秉 り彼の 蒼 を指し | |
馬の鞭を手に取り、遥か彼方の蒼天を指し、 | |
慨然發長喟 | |
慨然として長き 喟 を發つ | |
慨然として長い 喟 をついた。 | |
天孫河伯甥 | |
天の孫にして河伯の甥 | |
「天の孫にして河伯の甥、 | |
避難至於此 | |
難きを避れて此 於 至れり | |
難を 避 れてここまでたどり着いた。 | |
哀哀孤子心 | |
哀哀たらむかな 孤子 の心 | |
なんとも哀れなるか、 孤子 の心。 | |
天地其忍棄 | |
天地其れ棄つるを忍ばむや | |
さて天地よ、棄るに忍ばぬか。」 | |
操弓打河水 | |
弓を操り河水を打たば | |
弓を操り河水を打つと、 | |
魚鼈騈首尾 | |
魚や 鼈 首尾を 騈 せ | |
魚や 鼈 が首尾を 騈 せ、 | |
屹然成橋梯 | |
屹然として橋梯を成し | |
屹然として橋梯を成し、 | |
始乃得渡矣 | |
始めて乃ち渡るを得 矣 | |
はじめてこの時渡ることができたのだ。 | |
俄爾追兵至 | |
俄かに爾りて 追 の兵至り | |
間もなくして追手の兵がたどり着いたが、 | |
上橋橋旋圮 | |
橋に上れば橋 旋 り 圮 るる | |
橋に乗ると橋は元に戻り崩れた。 | |
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雙鳩含麥飛 | |
雙 の鳩は麥を含みて飛び | |
つがいの鳩が麥を咥えて飛び立ち、 | |
來作神母使 | |
神母の 使 と 作 り、 | |
神母の使者となって来た。 | |
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東明西狩時 | |
東明、西に狩る時 | |
東明が西で狩りをしていると、 | |
偶擭雪色麂 | |
偶 雪色の 麂 を擭 | |
たまたま雪色の 麂 を得たので、 | |
倒懸蟹原上 | |
倒して蟹原の上に懸け | |
倒して蟹原の上に懸け、 | |
敢自呪而謂 | |
敢へて自ら呪ひ 而 謂ふ | |
敢えて自ら呪い、そして言った。 | |
天不雨沸流 | |
天の沸流に 雨 らすこと 不 く | |
「天が沸流に雨を降らせることなく、 | |
漂汝其都鄙 | |
汝を其の 都 と 鄙 に漂はせ | |
都 と 鄙 に汝を漂泊させないのであれば、 | |
我固不汝放 | |
我固より汝の 放 にせ 不 | |
我は固より汝を解放するつもりはない。 | |
汝可助我懫 | |
汝、我の 懫 を助くる可し、と | |
汝よ、我の 懫 を助けるがよい。」 | |
鹿鳴聲甚哀 | |
鹿の 鳴聲 、甚だ哀しき | |
鹿の鳴声は、あまりに哀しく、 | |
上徹天之耳 | |
上は天 之 耳を 徹 き | |
遥か天の耳を 徹 き、 | |
霖雨汪七日 | |
霖雨 の汪ぐこと七日 | |
霖雨 が汪ぐこと七日、 | |
霈若傾淮泗 | |
霈 、淮泗を傾るが若し | |
大雨は、淮泗を傾けるほどで、 | |
松讓甚憂懼 | |
松讓甚だ憂ひ懼れ | |
松讓はひどく憂患と恐懼を抱き、 | |
沿流謾橫葦 | |
流れに沿ひて 橫葦 を 謾 り | |
流れに沿って 橫葦 を覆い繁らせると、 | |
士民競來攀 | |
士民競ひて 攀 りに來たり | |
士民が競って 攀 りに来て、 | |
流汗相𥈭眙 | |
汗を流して相ひ 𥈭 き 眙 め | |
汗を流しながら互いに驚き見つめ合うと、 | |
東明卽以鞭 | |
東明卽ち鞭を以て | |
東明はすぐに鞭を挙げ、 | |
畫水水停沸 | |
水を畫すれば、水、沸くを 停 む | |
水を断ち切ると、水は湧かなくなった。 | |
松讓擧國降 | |
松讓、國を擧げて降り | |
松讓は国を挙げて降伏し、 | |
是後莫予訾 | |
是の後、 訾 を 予 うること莫し | |
この後も、不平を言うことはなかった。 | |
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玄雲羃鶻嶺 | |
玄 き雲、鶻嶺を 羃 ひ | |
玄 き雲が鶻嶺を覆い隠したので、 | |
不見山邐迤 | |
山の 邐迤 たるを見ること 不 ず | |
曲がりくねった山脈を見ることはできず、 | |
有人數千許 | |
人數千 許 有り | |
数千人の人々が、 | |
斲木聲髣髴 | |
木を斲つる 聲 、髣髴とし | |
木を削るような音ばかりが鳴り響いた。 | |
王曰天爲我 | |
王曰く、天は我の 爲 | |
王は言う。「天は俺のために、 | |
築城於其趾 | |
城を其の 趾 於 築けり、と | |
城を自らの足許に築いたのだ!」 | |
忽然雲霧散 | |
忽然として雲霧散ずれば | |
たちまち雲が霧のように消え去ると、 | |
宮闕高㠥嵬 | |
宮闕は高く、㠥は 嵬 しき | |
宮闕が高く、城㠥が嶮しく聳え立っていた。 | |
在位十九年 | |
位 に 在 ますること十九年 | |
位在すること十九年、 | |
升天不下莅 | |
天に升り 莅 に下ること 不 ざらむ | |
朱蒙は天上高くまで昇ると、二度と地を這う人々の王位に下ることはなかった。 | |
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俶儻有奇節 | |
俶儻に 奇 節 有り | |
自由闊達な才覚に優れた者には、 奇 節 があるもので、 | |
元子曰類利 | |
元子は類利と曰ひ | |
元子の類利は、 | |
得劒繼父位 | |
劒を得て父の位を繼がば | |
劒を手に入れ、父の王位を継承し、 | |
塞盆止人詈 | |
盆を塞ぎて人の 詈 を止む | |
盆を塞いで、人の 詈 を止めた。 | |
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我性本質木 | |
我の性は 本 質木たり | |
私は本来、質朴な性格で、 | |
性不喜奇詭 | |
性は奇詭を喜ぶに 不 じ | |
奇詭を喜ぶ性分ではない。 | |
初看東明事 | |
初め東明の事を看ゆれば | |
初めて東明の事跡を熟読したとき、 | |
疑幻又疑鬼 | |
幻なるを疑ひ、又た鬼たるを疑ひけるも | |
幻ではないかと疑い、あるいは鬼ではないかと疑ったが、 | |
徐徐漸相涉 | |
徐徐に漸し相ひ涉らば | |
しばらくして徐々に書伝と己が通じ合い、 | |
變化難擬議 | |
變化して 擬議 難し | |
思いは変わって疑いを持つことができなくなった。 | |
況是直筆文 | |
況 や是れ直筆の文 | |
ましてやこれは直筆の文、 | |
一字無虛字 | |
一字も字を虛しくすること無かりければ | |
一字たりとも字に虚偽はないはずである。 | |
神哉又神哉 | |
神なる 哉 、又た神なる 哉 | |
神に違いない、ああ神に違いない! | |
萬世之所韙 | |
萬世 之 韙 きとする所 | |
萬世の正統とされる要因を鑑みて、 | |
因思草創君 | |
因りて草創の君を思へば | |
草創の君であることを思えば、 | |
非聖卽何以 | |
聖に非ざれば卽ち何以ならむ | |
聖でなければ何であるというのか! | |
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劉媼息大澤 | |
劉媼、大澤に 息 み | |
劉媼は大澤で休息していたとき、 | |
遇神於夢寐 | |
夢寐 に 於 いて神に遇へり | |
夢の中で神に遇い、 | |
雷電塞晦暝 | |
雷電、晦暝 を塞ぎ | |
雷電が 晦暝 を塞ぎ、 | |
蛟龍盤怪傀 | |
蛟龍 、 盤 ること怪傀たり | |
奇怪にも 蛟龍 がぐるぐるとその場で回ると、 | |
因之卽有娠 | |
之れに因りて卽ち 娠 む有り | |
それによって妊娠し、 | |
乃生聖劉季 | |
乃ち聖劉季を生ず | |
聖劉季を産んだのである。 | |
是惟赤帝子 | |
是れ 惟 るに赤帝の子ぞ | |
これは赤帝の子であると考えられ、 | |
其興多殊祚 | |
其の 興’ は、 殊 に祚 を多ならしめむ | |
その興隆から永きこと比類なく王朝は続いた。 | |
世祖始生 | |
世祖始めて生まれし時 | |
世祖がはじめて生まれし時、 | |
滿室光炳煒 | |
室に滿つるは 光炳 の 煒 | |
屋敷を満たしたのは 光炳 の 煒 | |
自應赤伏符 | |
自ら赤伏符に 應 へ | |
自ら赤伏符に応え、 | |
掃除黃巾僞 | |
黃巾の僞を掃き除く | |
黃巾の偽を掃き除いだ。 | |
自古帝王興 | |
古 の帝王の興る 自 | |
古の帝王が興隆してから、 | |
徵瑞紛蔚蔚 | |
徵瑞、紛すること蔚蔚とす | |
吉兆を隠す邪障が草や雲のように覆い茂り、 | |
末嗣多怠荒 | |
末の 嗣 、 怠 荒 こと多し | |
末裔の 嗣子 まで怠慢と荒蕪の時は永く、 | |
共絶先王祀 | |
共に先王の祀を絶やせり | |
先王の祭祀も絶たれてしまったが、 | |
乃知守成君 | |
乃 ち君を守成すること知らむとすれば | |
もし君王を守成したいと考えるならば、 | |
集蓼戒小毖 | |
蓼を集むるに小毖を戒めとし | |
困難に遭えば詩経『小毖』を戒めとし、 | |
守位以寬仁 | |
位を守るに寬仁を以てし | |
位を寬仁によって守り、 | |
化民由禮義 | |
民を化するに禮義に由らば | |
人民を礼義によって教化すれば、 | |
永永傳子孫 | |
永永として子孫に傳はり | |
末永く子孫に伝わり、 | |
御國多年紀 | |
御國、年紀を 多 らえむ | |
御国、年紀を永らえん。 | |
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