本生譚 兎王捨身供養梵志縁起 第六
兎王の講法
現代語訳
往きし日の菩薩、かつては兎の王であった。彼は前世から積まれた
「
この時、兎の王はいつも同類の為に上のような相応法要を宣説していた。
漢文
菩薩往昔曾作兎王、以其宿世餘業因緣、雖受斯報而能人語、純誠質直未嘗虛謬、積集智慧熏修慈悲、不生一念殺害之心、於彼無量百千兎中、稟性調柔居其上首、為彼徒屬講宣經法、勸令諦聽善思念之、我及汝等無始劫來、不修正行隨惡流轉、由四種因在三惡道、所謂四者貪瞋癡慢、或由慳貪造十惡業、以是因緣墮餓鬼中、慳增上故其咽如針、長劫不聞漿水之名、設得少食變成火聚、皮骨連立受饑渴苦。或由瞋恚造十惡業、以是因緣墮傍生中、或為鷙獸虎兕毒蛇、無足多足更相食噉、受駝牛報負重致遠、項頷穿破償住宿債。或由愚癡造十惡業、以是因緣墮於地獄、無淨慧故撥無因果、毀佛法僧斷學般若、人於苦處八寒八熱、日山劎林種種治罰。或由我慢造十惡業、以是因緣墮修羅中、心常諂曲貢高自大、離善知識不信三寶、雖受福報如彼天中、常苦鬪戰殘害支節、我今略陳如是諸趣、所受眾苦、若具說者窮劫不盡。又我與汝盲無慧眼、癡增上故受彼兎身、常受饑渴乏於水草、處於林野周慞驚怖、或為罝網機陷所困、為彼獵者之所傷害、現受此苦深可厭患、汝等各各發勤勇心、修十善行趣出離道、求生勝處。是時兎王常為同類、宣說如上相應法要。
書き下し文
菩薩、
外道の婆羅門
現代語訳
ひとりの外道の婆羅門の家系の生まれの――世を厭うて出家し、仙道を修習した――者がいて、愛欲から遠く離れて
「ああ、現世で私は人としての生を受けたというのに、なんと
この時、仙人は即座に起きて合掌し、兎の王の寂静される場所に参上して申し上げた。
「なんと不思議なことか、偉大なる士よ。そのかりそめの体躯を現し、有情に尽くして広く法要を宣べておられる。今のあなたは真実の大いなる法を持たれる者、正法の戒を積み重ねられておられるに違いありませぬ。願わくば、今は我がために、最上究極の
この時、兎は答えた。
「偉大なる婆羅門よ、我が今生において説く解脱の法は、苦の終焉を尽くすことを可能にするもの。あなたの時機に適ったのだろう。ひたすら問いかけ、出し惜しみをせず、もはや私は
この時、仙人はこの教説を聞くだけで、心には未曾有の大いなる歡喜が満ち溢れた。
「今こそ私は幸運にも慈悲の教化に親しむことができるのです! 願わくば、教誨を垂れることに
漢文
有一外道婆羅門姓、厭世出家修習仙道、遠離愛欲不起瞋恚、飲水食果樂居閑寂、長護爪髮為梵志相、忽於一時遙聞兎王、為彼群兎宣說經法、而自咨嗟乃作是言、我今雖得生於人中、愚癡無智不及彼兎、了達善法開悟於他。此必大權聖賢所化、或是梵王大自在等。我因得聞彼所說法、身心泰然離諸熱惱、今此兎王自性仁賢、善能發明先聖之道、分別善惡報應之理、我從昔來棲止山谷、艸衣木食求出離道、未逢師友如是教誨、今始遇之喜躍無量。是時仙人即起合掌、詣兎王所安徐而言、奇哉大士現此權身、能為有情廣宣法要、汝今真是持大法者、必當所蘊正法之戒。願今為我開示演說、最上究竟出離之道。我先修習婆羅門法、久受勤苦殊無所益、譬如有人信順愚夫、鑽冰求火不可得也。願投仁諸作歸依處。時兎答言大婆羅門、我今所說解脫之法、能盡苦際稱汝機者、但當發問無所悋惜。我已久除慳貪之垢、為利有情樂住生死、化彼同類受是兎身。是時仙人聞是說已、心大歡喜得未曾有、我今幸得親附慈化、願垂教誨勿辭勞倦。
書き下し文
どれほど多くの年月が過ぎただろうか。義が深まり友と親しみ、兎と何ひとつ変わらず、草を食べて泉の水を飲んできた。当時の世の人民は行いを
「今年も私は更に食べ物を欠くようになってきた。もしこれからも飢餓と荒廃がますます広がり続けるばかりで止まることがないのであれば、白兎の言葉が今しばらく(私から)離れ、どこか別のところに向かってしまったとしても、おかしく思わないでほしい。」
そこで兎は告げた。
「偉大なる仙人よ、あなたは自らの現状を楽しまれておらぬ。どうやら(私は)過ちを犯したようだ。どうかお赦し願いたい。かつての約束の言葉が、今にもあっさりと別れの言葉になってしまいそうだ。」
婆羅門は言った。
「ここにはひっそりとした静寂がございます。自らの過ちや憂患は絶たれ、兎たちは仲睦まじく穏やかに、それぞれが互いに危害を加え合うこともありません。私だけは天祐も薄く、自分の食べるものにも困っておりますが、これまで久しく偉大なる士に帰依して法の旨味を味わうことができたのです。これから終身、そのことを心腑に貯め続けることを約束しました。どうかその伝統を広め、群有を救済してください。飲物を絶たれ、食物を亡失して十日を経ましたが、命が
それを兎は悲しみに咽喉を詰まらせながら聞き、そして言った。
「今生の別れはしばしのこと。いつか再びめぐり合おう。願わくば、一晩ほど宿をとって虔伸薄供をさせていただきたい。」
この時、兎王は兎の群衆に語りかけた。
「今のあの偉大なる仙人の悟りに至る道方は堅固である。これこそが善き知性を涵養する最上の善き畑なのだ! お前たちよ、力を合わせて多くの乾いた薪を積み上げ、共に夜明けの飲食を炊爨し、供える用事を助けようではないか!」
そこで仙人が戻ったところまで行き、次のように言った。
「さて、どうか明日の夜明け方、必ず私の頼みを受け入れていただきたい。」
すぐさま仙人はそれを許可し、かの婆羅門は立ち止まってあれこれと考えていた。
「今のあの兎たちが何かを持っていることがあろうか? あるいは斃れた鹿でも手に入れたのか、それとも五残獣だろうか。」
このように心の中に歓悦の情が浮かび上がり、勤請を捧げた。
凡歷多年義深親友、食草飲泉與兎無異。時世人民枉行非法、慣習罪惡福力衰微、善神捨離災難競起、共業所招令天亢旱、經子數載不降甘雨、艸木焦枯泉源乾涸。時婆羅門即作是念、我今年邁復闕所食、若唯止此轉增饑羸、乃白兎言今且暫離、往至餘處幸勿見訝。兎即告曰、大仙今者不樂其所、誠恐悞犯兾乞容恕、久要之言俄成輕別。婆羅門曰、此處幽寂絕其過患、諸諸兎調順各不侵撓、但我薄祐乏其所食、久依大士獲聞法味、要當終身藏之心腑、願廣其傳以濟群有、絕漿亡食已經旬日、恐命不保虛捐前功。兎聞是已悲哽而言、今此睽違何時再遇。願留一宿虔伸薄供。是時兎王語群兎曰、今此大仙道方堅固、是善知最上福田、汝等戮力多積乾薪、共助晨飡供爨之用。乃詣仙所復作是言、誰願明旦必受我請。仙即許之、彼婆羅門佇思詳審、今此兎者為何所有。或得斃鹿或五殘獸、心生歡悅勤請如是。
凡そ多くの年を
この時、兎の王は兎の群衆に言っていた。
「今ここにいる偉大なる仙人は欲も我も捨て去った。無常別離の世態とは、このようなものだ。衆生の寿命は幻化の如し。果報とは一たび来れば脱することはあり得ぬ代物。だからこそお前たちは、これからも精進に勤め、
その間の兎の王は終夜、寝ることもなく自らの
「偉大なる仙人よ、私からの頼みだ。まず僅かながらの供養をさせてもらいたい。もう既に言葉は具えたが、どうかなんとしてでもこれを食べてもらいたいのだ。なぜなら今の私は貧乏であり労力を施すこともできない。――仁者が疑いなき信心を定め、受け容れること。私からは他者に安穏と安楽とを与え、自ら己の身を捨て、貪惜をなくし、あらゆる生証無上なる
この言葉を口にしたのは自らの身体を火の中に投げた後であった。この時、かの仙人はこの事をただ見ることしかできなかった。燃え盛る業火に急いで這い入り、彼を救い出したが、――頑丈な身体ではないのだ――焼け爛れて死んでいた。彼を膝に抱えながらも悲しみ堪えることができなかった。
「苦しかったであろう、偉大なる士よ。こんなにもあっさりと他者の身を救済するために自己の生命を捨て去ってしまうとは。私は今から敬礼し、あなたを主人として帰依します。願わくば我が来世、永遠に彼の弟子とならんことを。」
この誓いを口にしたのは、兎を地に置いて頭を地面にこすりつけて礼をし、また兎の王を抱えて一緒に
この時、帝釋天の眼は遥か遠くを
「過去の仙人とは、弥勒のことである。かの兎の王とは、つまり私のことである。」
是時兎王謂群屬曰、今此大仙欲捨我去、無常別離世態若此、眾生壽命猶如幻化、果報一來無能脫者、是故汝等當勤精進、求出離道得盡苦際。爾時兎王終夜不寐、為彼同類說如是法、當其清旦詣積薪所、以火然之其焰漸熾、白言、大仙、我先所請欲陳微供、今已具辦願強食之、所以者何。我今貧乏施力為難、唯願仁者決定納受、我欲令他獲安隱樂、自捨己身無所貪惜、共諸眾生證無上覺。說是語已投身火中、時彼仙人覩是事已、急于火聚匍匐救之、不堅之身焂焉而殞、抱之于膝悲不自勝、苦哉大士、奄忽若此、為濟他身而殞己命、我今敬禮為歸依主、願我來世常為弟子。發此誓已置兎於地、頭面作禮而復抱持、即與兎王俱投熾焰。是時帝釋天眼遙觀、即至其所興大供養、以眾寶建窣覩波。佛語諸比丘、昔仙人者彌勒是也、彼兎王者即我身也。
是の時、善神捨離
現代語訳
漢文
書き下し文
俱投熾焰
現代語訳
仏陀は比丘たちに語った。
漢文
書き下し文