紳士與平民① 階級闘争

自古以来

現代語訳

 古より以来、おおよそ一切の社会の歴史は、おしなべて階級闘争の歴史であった。


漢文

 自古以來、凡一切社會之歷史、均階級鬥爭之歷史也。

書き下し文

 古より以來 のち 、凡そ一切の社會の歷史は、均しく階級鬥爭の歷史なり。

現代語訳

 紳士とは、つまり近世の資本階級のことであり、社会の生産機関を掌握し、賃金雇用によって民を労せしめる者である。平民とは、つまり近世の賃金労働階級のことであり、生産機関の自己所有をしていないことから、自身の労働力を売ることで生活を求める者である。

 ここで歴史と称されるものは、記録が存在するものを指して言う。思うに一千八百四十七年の当時は、おおよそ記録の存在する以前の社会については、その組織の状況について、まだ知られてはいなかったのだろう。哈克什達孫玉 ハクスタウゼン に至って、俄国 ロシア に土地の共有制が発見された。馬鳥勒爾 マウレル は次いで記録の存在する以前の條頓 テウトネス 人が、あらゆる土地の共有を社会の基礎としていたことを証明した。これら以外の村落共産制のようなものは印度 インド から愛爾蘭 アイルランド に至るまで、道すがらのところどころにおいて、発見あるいは考察できるものである。また、摩尔根 モーガン 著『古代家族の性質』によれば、原始共産の組織については昭然著明、思うに原始共産制の分解以後の社会の中に階級の区別が始まった。こうして、それぞれの階級の間に相互の争いが遂に出現したのであろう。


漢文

 紳士云者、即近世資本階級握社會生產機關以賃銀顧用勞民也。平民云者、即近世賃銀勞動階級以生產機關非已有惟賣力以求生活者也。

 茲所稱歷史、指有錄者言之、蓋當一千八百四十七年時、凡未有記錄以前之社會、其組織之況、尚無所知、及哈克什達孫玉俄國發見土地共有制。馬鳥勒爾、又證以條頓人稱當未有記載以前、皆土地共有為社會基礎。此外若村落共產制、自印度至愛爾蘭、隨處可考見。又依摩尔根所著『古代家族之性質』、於原始共產之組織、昭然著明、蓋原始共產制分解以後、社會之中、始區階級而各階級間遂出于相爭。

書き下し文

 紳士と云ふ者、即ち近世の資本階級は、社會の生產機關を握り、賃銀の顧用を以ちて民を勞せしむるなり。平民と云ふ者、即ち近世の賃銀勞動階級は、生產機關の已の もの に非ざるを以ちて、惟れ力を賣りて以ちて生活 くらし を求むる者なり。

  ここ に歷史と稱さるる所は、 しる す者有るを指して之れを言ふ。蓋し一千八百四十七年に當たる時、凡そ未だ記錄 しるす 有る以 まへ の社會は、其の組織の かたち は、尚ほ知らるる所無し。哈克什達孫玉に及び、俄國の土地の共有制を發見す。馬鳥勒爾は又た あか すに條頓人の ふ未だ記載 ふみ の有らざる まへ の、皆の土地の共に ちたるの社會の基礎 いしづえ らしむるに當たるを以ちてす。此の ほか 村落 むら の共產制の ごと きは、印度 り愛爾蘭に至るまで、 まにまに する ところ 、考見す可し。又た摩尔根に著さるる所の古代家族の性質に依れば、原始共產の組織に於いては、昭然著明、蓋し原始共產制の分解 り後、社會の中、始めて階級を くぎ り、而りて各の階級の間は遂に相ひ爭ふこと出づらむ。

一曰紳士、二曰平民

現代語訳

 希臘 ギリシャ の自由民と奴隷、羅馬 ローマ の貴族と平民、中世の領主と農奴、同業組合員と被顧用職人……。一言をもって蔽わば、おしなべて圧制者と被圧制者の階級である。これらふたつの階級は、古より以来、相互に衝突し合い、ある時には隠然と、ある時には顕然と紛争し、休むことがなかった。そしていつも戦争の結果は、社会全体の革命の新たな建設に即し、さもなくば両者ともに敗れて傷つき、そうした後に止まることになった。

 彼我もなく仮に世の歴史を遡上することになれば、各地の間、それらの社会及び秩序、組織は常に複雑であることが多かった。だから階級の差別も同様、非常に多かった。例えば古代の羅馬 ローマ のごときは、貴族、騎士 ナイト 、奴隸といった諸階級があった。中世に至り、複数の封建領主と家臣 ヴァッサル があった。同業組合員の被雇用職人や芸徒 アプレンティス 及び農奴諸階級、そしてこれらの諸階級の間には、複数のその付属の階級があった。

 封建社会が廃滅して新たな紳士社会が発生したことも、この階級闘争の例外ではない。その旧来のものに取って代わる原因となったもの、つまり設立の中心は階級であった。圧制の新たな政策であり、闘争の新たな形勢である。

 かような階級闘争であるが、今日に至って非常に単純となったことは、現今の紳士閥の時代の特殊な景観である。故に今日の社会全体の分崩離析は、日に日に甚だしくなるばかりで、ある日に双方がそれぞれに別れて対峙するその形勢において、巨大な二つの階級がむき出しにされる。これらの階級とは何か。ひとつに紳士、ふたつに平民という。


漢文

 希臘之自由民與奴隸、羅馬之貴族與平民、中世之領主與農奴同業組合員與被顧職人。蔽以一言、則均壓制者與被壓制者之階級、此兩階級自古以來恆相衝突、或隱或顯、紛爭不休、然每次戰爭之結果、即社會全體革命之新建設、否則兩敗俱傷而後止。

 吾人若溯上世之歷史、則各地之間、其社會及秩序、組織恆多複雜、而階級差別亦至多。例如古代之羅馬、有貴族騎士Knight奴隸諸級。至于中世、複有封建領主家臣Vassal。同業組合員被顧職人藝徒Apperentice及農奴諸級、而斯等諸階級間、複有其附屬之階級。

 自封建社會廢滅而新紳士社會發生、亦不外此階級鬥爭也。其所以代舊物者、則設立之心階級也。壓制之新政策也、鬥爭之新形勢也。

 雖然階級鬥爭、至于今日、至為單純乃現今紳士閥時代之特觀、故今日社會全體之離析、日甚一日雙方那個對峙之形以呈巨大之二階級、此階級惟何。一曰紳士、二曰平民

書き下し文

 希臘の自由民と奴隸、羅馬の貴族と平民、中世の領主と農奴、同業組合員と被顧職人。蔽ふに一言 ひとこと を以ちてすれば、則ち均しく壓制する者と壓制を被る者の階級、此の ふたつ の階級は古 以來 のち 恆相 たがひ に衝突し、 あるとき かげ あるとき ひなた に、紛爭して休むことなし。然るに每次 ことごと 戰爭 いくさ 結果 はて は、即ち社會全體の革命の新たな建設、 さにあら ざれば則ち いづれ も敗れて とも に傷つき、 すなは ち後に止む。

 吾も人も若し世の歷史を溯上 さかのぼ らば、則ち各地の間、其の社會及び秩序、組織は つね に複雜なること多し、而るに階級の差別も亦た まこと に多し。例ふれば古代の羅馬の如きは、貴族騎士Knight奴隸諸級有り。中世に至り、 おほ くの封建領主家臣Vassal有り。同業組合員、被顧職人藝徒Apperentice及び農奴諸級、而るに斯く等の諸階級の間、 おほ く其の附屬の階級有り。

 封建社會の廢滅する り、而りて新たな紳士社會の發生 うまるる も、亦た此の階級鬥爭より外れざるなり。其の舊き物を代ふ所以 ゆゑ の者も、則ち設立の心は階級なり。壓制の新たなる政策なり。鬥爭の新たなる形勢なり。

 然る階級鬥爭と雖も、今日に至り、 まこと に單純と為れり。乃ち現今の紳士閥の時代の特觀、故に今日の社會全體の離析は、 ひにひ に甚し。一日に雙方 ふたかた とも那個 おのもおの も對峙の形は、以ちて巨大なるが二つの階級を呈し、此の階級は惟れ何ぞ。一に紳士と曰ひ、二に平民と曰ふ。

底本

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