山上
さて、山上という人物は、字を徹也といい、瀛洲の奈良の人である。幼くして父を喪ったが、彼の祖父は商売に成功して家が裕福だったので、彼を養うことにした。ところがよき日々は長くは続かなかった。数年ほど後になると、祖宗を彼の母は受け継ぐことができず、遂に祖父の財産を売り払うことで日を送ることになった。
漢文
夫山上者、字徹也、瀛洲奈良人也、幼喪父、其祖行商、家富、乃奉之。然美况短也、出数年、祖宗、其母難継、遂売祖産以度日。
書き下し文
夫れ山上なる者、字は徹也、瀛洲の奈良の人なり。幼くして父を喪ふも、其の祖は行商し、家は富み、乃ち之れを奉ふ。然れども美况は短きなり。数年を出にし、祖宗、其の母は継ぎ難く、遂に祖の産を売り、以ちて日を度る。
邪教
現代語訳
徹也の性格は温和であり、口数は少なかったが、学業に勤めていたので、友人は皆がそのことに敬意を持っていた。学業を修めたいと思っていたが、彼の母親はそのことにお金を使おうとはしなかった。おそらく彼の母が統一邪教に耽溺し、彼の祖父の財産をすべてそれに尽く用いたことが原因であろう。そのため徹也は学問を修めることができず、遂に海上自衛隊に入り、銃の構造を習得した。彼の兄は病み、その後も治ることはなく、そのまま自ら首を吊って死んだ。親族は皆が逝去し、徹也は故郷の田舎に流れ、働いて僅かな給料を得て日を送っていた。
漢文
徹也性温和少言、勤于学業、友皆以敬之。欲求学、然其母无以資之、盖因其母湎于統一邪教、其祖産尽皆用之。徹也无以為学、遂入海上自衛隊、習槍械之構。其兄病、无資以治、乃自縊。親皆逝、徹也流于郷野、働碌以度日。
書き下し文
徹也の性は温和にして言は少なく、学業に勤め、友は皆が以ちて之れを敬ふ。学を求めむと欲ふも、然れども其の母に以ちて之れに資うこと无し、盖し其の母の統一邪教に湎り、其の祖の産の尽く皆之れに用うるに因ればなり。徹也は以ちて学を為すこと无く、遂に海上自衛隊に入り、槍械の構へを習ふ。其の兄は病み、以ちて治るに資ること无く、乃ち自ら縊りたり。親は皆逝き、徹也は郷の野に流れ、働き碌して以ちて日を度りたり。
安倍
現代語訳
安倍という人物は、字を晋三といい、瀛洲の前の相国である。元は公卿の大家であり、彼は父親の地盤を継承し、四度にわたって瀛洲の相国の地位を授かり、現在は位を退き第一線からは身を引いたが、その威光はまだ健在であった。街中に次のような流言が立った。「統一の邪教は、どうやら安倍に融資することで、彼から庇護を受けているらしい。」これを聞いた徹也は、そこで怨みを安倍に向け、彼を除きたくて堪らなくなった。
漢文
安倍者、字晋三、瀛洲之前相国也、乃公卿大家、承其父業、四拜瀛之相国、今雖退隠、其威尚存。坊有流言、統一之邪教、乃以資惠与安倍、以受其庇也。徹也聞之、乃帰怨与安倍、欲以除之而后快。
書き下し文
安倍なる者、字は晋三、瀛洲の前の相国なり。乃ち公卿の大家、其の父の業を承け、四に瀛の相国を拜かり、今は退き隠ると雖も、其の威は尚ほ存らむ。坊に流言有り、統一の邪教、乃ち資惠を以ちて安倍に与え、以ちて其の庇を受くるなり、と。徹也は之れを聞き、乃ち怨みを帰すに安倍に与え、以ちて之れを除きて后の快とせむと欲ふ。
復讐
現代語訳
公暦2022年のこと、安倍は奈良で遊説していたが、聴衆の数は物寂しく、彼の護衛も怠けていた。徹也はそこでひそかに銃を隠し持ち、普段着を身につけてそこに接近した。護衛の者は数ばかりは多かったが、それでも誰も気づくことはなかった。突然、銃声が鳴り響き、人々は皆が呆気に取られるばかりで、なにが起こったのかまったく理解できず、安倍も同じく首を回してそちらを振り向いた。徹也は銃を持ち、またしてもそれに讐いると、彼の胸に命中し、流血が靴を濡らした。人々は皆が驚いて恐怖し、医者を尋ねて彼を救おうとしたが、果たされることなく安倍は薨去した。
漢文
公暦二零二二年、安倍話学于奈良、听者寥寥、其衛亦怠。徹也乃持私械、着便衣以近之、護衛者衆、尚无人察。俄而槍声起、衆皆惘、不知何故、安倍亦回首顧之。徹也持械、復讐之、中其膺、流血及鞋、衆皆惧、欲尋医以救之、然未果、安倍薨。
書き下し文
公暦の二零二二年、安倍は奈良に于いて話学するも、听く者は寥寥とし、其の衛も亦た怠けたり。徹也は乃ち私に械を持ち、便衣を着て以ちて之れに近づかば、護衛の者は衆かるも、尚ほ人の察くこと无し。俄かにして槍の声は起こり、衆の皆が惘くも、何故をか知らず、安倍も亦た首を回して之れを顧ゆ。徹也は械を持ち、復たしても之れに讐さば、其の膺に中り、流るる血は鞋に及び、衆は皆が惧れ、医を尋ねて以ちて之れを救はむと欲ひたるも、然れども未だ果たすことあらずして安倍は薨る。
英雄
現代語訳
現在は安倍の亡き故、彼の領めていた国の人々は彼を怨んで日は長かったことから、その知らせを聞いた人々は皆がそのことを讃え、山上徹也を民族の英雄と称するようになり、彼を中華民族の一員に封じるとともに、彼を無罪にせよと主張した。ところで、英雄連盟で名が知られていた双つの銃を持つ法外の狂徒は、遂に彼の名をもってそれを褒誉され、『日本鯖第一の銃士』と号されるようになった。
漢文
今安倍亡故、其領国怨之已久、聞其訊、衆皆賛之、乃称山上徹也民族之英雄也、欲封其以華族、並其以无罪。夫有法外狂徒、持双槍、聞名于英雄連盟、遂以其名以誉之、号曰、日服第一男槍也。
書き下し文
今は安倍の亡き故、其の領むる国は之れを怨みて已に久し、其の訊を聞かば、衆は皆が之れを賛へ、乃ち山上徹也を民族の英雄と称ぶや、其れを封ふるに華の族を以ちてし、並びに其れ以ちて罪无しとせむと欲ひたり。夫れ法の外の狂の徒有り、双つの槍を持たば、名をば英雄連盟に聞き、遂に其の名を以ちて之れを誉むるに、号にして曰く、日服第一男槍と以ちてするなり。