初転法輪

五人の比丘の了知心

現代語訳

 時に世尊は次第に遊行して波羅㮈(バラナシ)国の仙人堕処サールナート鹿野苑リシパタナ・ムリガダーバまでたどり着くと、五人の比丘の住処に近づいた。五人の比丘は遠方から世尊が来るのを見た。見ながら互いに約束して言った。

「あちらから来る者はまさしく沙門の瞿曇ゴータマ、彼は贅沢をするようになって精進を放棄し、贅沢へと堕落した。彼に礼をしてはならぬ。立ち上がって迎えに行ってもならぬ。彼の衣鉢を取ってはならぬ。座席を設けるくらいはいいが、彼が仮に座席に就きたいと欲した時だけだ。」

 世尊が段々と五人の比丘に接近してくると、五人の比丘はただちに自分たちの約束を守ることなく、立ち上がって世尊を迎えに行った。ある者は世尊の衣鉢を取り、ある者は座席を一緒に設け、ある者は足を洗う水や足の台、足布を持って来た。世尊は設けられた座席の上に鎮座した。座席に就いた後、世尊は足を洗った。そこで五人の比丘は世尊をあなた様と呼称した。

 彼らがかくのごとく呼称した時、世尊はそこで五人の比丘に告げた。

「比丘たちよ、お前たちは一切の名を用いることをしてはならぬ。『あなた様』と如来を呼称せよ。比丘たちよ、如来とは、つまり世間から供養を受けるに相応しい者であり正覚と等しいのだ。比丘たちよ、あきらかに聴け。不死を得た後であることを証明しよう。余はこれから教誨しようではないか。余はこれから説法しようではないか。教えられたことに隨い、そして行う者は、遠くないうちに必ず現法から自ら証知することが可能なのだ。現証は、究竟無上の梵行を具足して住まうものである。このことこそ善き男子が家を離れること、――出家の本懐である。」

 かくのごとく説いた時、五人の比丘は世尊に告げて言った。

瞿曇ゴータマよ、お前はかの行、かの道を用いたが、かの難行、いまだに上人の法を得たことや尊き殊勝の智見に至ったことを証明していない。今のお前は贅沢をして精進を放棄し、贅沢に堕落した。いかにして上人の法を得、尊き殊勝の智見に至ったのかを証明できるのか。」

 かくのごとく説いた時、世尊は五人の比丘に告げた。

「比丘たちよ、如来は贅沢をして精進を放棄したなどということはない。贅沢に堕落したのではない。比丘たちよ、如来とは、つまり世間から供養を受けるに相応しい者であり正覚と等しいのだ。比丘たちよ、あきらかに聴け。不死を得た後であることを証明しよう。余はこれから教誨しようではないか。余はこれから説法しようではないか。教えられたことに隨い、そして行う者は、遠くないうちに必ず現法から自ら証知することが可能なのだ。現証は、究竟無上の梵行を具足して住まうものである。このことこそ善き男子が家を離れること、――出家の本懐である。」

 五人の比丘は重ねて世尊に告げた。……(中略)……世尊は重ねて五人の比丘に告げた。……(中略)……五人の比丘は三度目に世尊に告げた。「瞿曇ゴータマよ、お前はかの行、かの道において……(中略)……どうやって尊き殊勝の智見に至ることができたのだと証明することができるのか。」

 かくのごとく言った時、世尊は五人の比丘に告げた。

「比丘たちよ、お前らは現在より前において余がかくのごとく説いたことがあったのか、なかったか、知っているだろう! なかったのだ! 比丘たちよ、如来とは、つまり世間から供養を受けるに相応しい者であり正覚と等しいのだ。比丘たちよ、あきらかに聴け。……(中略)……出家の本懐である。」

 世尊が説いた後、五人の比丘は屈服した。時に五人の比丘は傾聴し、よく如来に聴き従ったが故に、了知心を発したのだ。


漢文

 時、世尊次第遊行至波羅㮈國仙人墮處鹿野苑、近五比丘住處。五比丘從遠方見世尊來、見而相約言、從彼處來者是沙門瞿曇、彼奢侈而棄精進、墮于奢侈。勿禮彼、勿起迎、勿取彼衣鉢、但為設座、彼若欲時得就坐。

 世尊漸臨近五比丘、五比丘即不守己約、起迎世尊。或取世尊衣鉢、或與設座、或持來洗足水、足臺、足布。世尊坐于所設座上、就坐已、世尊洗足、而五比丘以卿稱呼世尊。

 彼等如是稱呼時、世尊即告五比丘曰、諸比丘。汝等切勿以名、以卿稱呼如來。諸比丘。如來是應供等正覺。諸比丘。諦聽。證得不死已、我應教誨、我應說法。隨所教而行者、不久必能于現法自證、現證、具足究竟無上梵行而住。此乃善男子離家、出家之本懷也。

 如是說時、五比丘白世尊言、瞿曇。汝以彼行、彼道、彼難行、尚未證得上人法、至尊殊勝之智見。今汝奢侈棄精進、墮奢侈、如何能證得上人法、至尊殊勝智見耶。

 如是說時、世尊告五比丘曰、諸比丘。如來非奢侈而棄精進、非墮奢侈。諸比丘。如來乃應供等正覺也。諸比丘。諦聽。證得不死已、我應教誨、我應說法。隨所教而行者、不久必能于現法自證、現證、具足究竟無上梵行而住。此乃善男子離家、出家之本懷也。

 五比丘重白世尊、……乃至……世尊重告五比丘曰、……乃至……五比丘三白世尊、瞿曇。汝于彼行、彼道……何能證得至尊殊勝之智見耶。

 如是言時、世尊告五比丘曰、諸比丘。汝等于今以前知我有如是說否。否。諸比丘。如來乃應供等正覺也。諸比丘。諦聽……出家之本懷也。世尊已說服五比丘。時、五比丘傾聽、善聽如來故、發了知心。

書き下し文

 時に世尊は次第ならびに遊び行きて波羅㮈國の仙人墮處の鹿野苑に至り、いつたりの比丘の住處すみかに近づけり。いつたりの比丘は遠きところり世尊の來たるを見、見て相ひうけひしてまをさく、彼の處從り來たる者は是れ沙門の瞿曇、彼は奢侈おごりて精進を棄て、奢侈おごりに墮つる。彼にゐやまふこと勿れ、起き迎ふこと勿れ、彼の衣鉢を取ること勿れ、但だ設座を為さむとするは、彼の若し時に坐に就くを得むと欲すればなるのみ。

 世尊はやうやく臨みていつたりの比丘に近づき、いつたりの比丘は即ち己のうけひを守らず、世尊を起こり迎ゆ。あるものは世尊の衣鉢を取り、あるものは設座を與にし、あるものは足を洗ふ水、足の臺、足の布を持ち來たり。世尊は設けらるる所の座の上に坐り、坐に就くこと已にし、世尊は足を洗ひ、而りていつたりの比丘は卿を以ちて世尊を稱呼べり。

 彼等の是くの如く稱呼ばふ時、世尊は即ちいつたりの比丘に告げて曰く、もろもろの比丘よ、汝等なむぢらまことに名をもちゆこと勿れ。卿を以ちて如來を稱呼ぶべし。もろもろの比丘よ、如來は是れ應供にして正覺と等しき。もろもろの比丘よ、あきらかに聽け。不死を得ること已にするを證さむ。我はまさ教誨をしへ、我はまさに法を說かむとす。教へらるる所に隨ひ、而りて行ふ者、久からずして必ずうつつの法の自らあきらむに能ふ。現證は、究竟無上の梵行を具足して住まへり。此れ乃ち善き男子の家を離るること、出家の本懷なり、と。

 是くの如く說ける時、いつたりの比丘は世尊にまをしていはく、瞿曇よ、汝は彼のをこなひ、彼の道を以ちてするも、彼の難きをこなひ、尚ほ未だ上人の法を得、尊き殊勝の智見に至るをあかせず。今のなむぢは奢侈にして精進を棄て、奢侈に墮ち、如何いかにして能く上人の法を得、尊き殊勝の智見に至るを證すか、と。

 是くの如く說ける時、世尊はいつたりの比丘に告げて曰く、もろもろの比丘よ、如來は奢侈にして精進を棄つるに非ず、奢侈に墮つるに非ず。もろもろの比丘よ、如來は乃ち應供すること正覺に等しきなり。もろもろの比丘よ、あきらかに聽け。不死を得ること已にするをあかし、不死を得ること已にするを證さむ。我はまさ教誨をしへ、我はまさに法を說かむとす。教へらるる所に隨ひ、而りて行ふ者、久からずして必ずうつつの法の自らあきらむに能ふ。現證は、究竟無上の梵行を具足して住まへり。此れ乃ち善き男子の家を離るること、出家の本懷なり、と。

 いつたりの比丘は重ねて世尊にまをさく、……乃至ないし……世尊は重ねていつたりの比丘に告げて曰く、……乃至ないし……いつたりの比丘はみたび世尊にまをさく、瞿曇よ、は彼のをこなひ、彼の道に于いて……何の能く尊き殊勝の智見に至るを得むことをあかさむや、と。

 是くの如く言ふ時、世尊はいつたりの比丘に告げて曰く、もろもろの比丘よ、汝等なむぢら今以さきに于いて我の是くの如く說く有るや否やを知れり。否。もろもろの比丘よ、如來は乃ち應供すること正覺に等しきなり。もろもろの比丘よ、あきらかに聽け……出家の本懷なり。世尊は已に說き、いつたりの比丘はしたがへり。時にいつたりの比丘はみみを傾け、善く如來にしたがふが故、了知心ををこせり。