政体
現代語訳
土地があり、人民が大地に立つ――これを国という。世界の国には二種類ある。ひとつには君が主となる国、ふたつには民が主となる国。
制度を設け、号令を施すことで、その土地の人民を治めること、これを政という。世界の政には二種類ある。ひとつには憲法を有する政《またの名は立憲の政》、ふたつには憲法なき政《またの名は専制の政》である。
ひとつの定まった政治を採用し、それで国民を統治するもの、これを政体という。世界の政体には三種類ある。ひとつには君主専制政体、ふたつには君主立憲政体、みっつには民主立憲政体。今日の全地球に強国と称号されるものは十数箇国あるが、俄羅斯の形成する君主専制政体と、美利堅、法蘭西の為す民主立憲政体といった例外を除けば、おのずと余りの諸国はすべて君主立憲政体である。
君主立憲こそが政体の最良のものである。民主立憲政体では、その国が政治の方策を立てようとすれば、あまりに多くのことを変更し、総統の選挙の時になれば、競争があまりに苛烈となる。国家の幸福において、いまだかつて間に抵抗の存在しなかったためしがない。君主専制政体では、朝廷は民を草芥のようにしか見ず、それは彼らを盗賊であるかのように関係を遮ろうとする。民は朝廷を獄吏のように畏怖し、かれらはそれを仇敵のように憎悪する。だからその国の民は苦しみを極め、しかもその国の君主と大臣も同様に危うさを極める。かの俄羅斯が如きも、一時には虎狼のごとき威勢を有していたが、その国内では実に人心が荒廃し、一日でさえ乗り切ることができないと感じられている。これゆえに君主立憲とは、政体のうち最良のものである。地球各国は既にこれを施行して効果を出している。しかも、それを中国古来の風俗と今日の時勢と引き比べてみても、同じくそれを採用して弊害のないものである。《三種類の政体について、旧訳では君主、民主、君民共主としていたが、名称と語義が合致せず、ゆえに改めて現在の名を定めた。》
漢文
有土地、人民立於大地者謂之國。世界之國有二種。一曰君主之國、二曰民主之國。設制度、施號令以治其土地人民、謂之政。世界之政有二種。一曰有憲法之政(亦名立憲之政)二曰無憲法之政(亦名專制之政)。采一定之政治以治國民謂之政體。世界之政體有三種。一曰君主專制政體、二曰君主立憲政體、三曰民主立憲政體。今日全地球號稱強國者十數、除俄羅斯為君主專制政體、美利堅、法蘭西為民主立憲政體外、自餘各國則皆君主立憲政體也。君主立憲者、政體之最良者也。民主立憲政體、其施政之方略、變易太數、選舉總統時、競爭太烈、於國家幸福、未嘗不間有阻力。君主專制政體、朝廷之視民如草芥、而其防之如盜賊。民之畏朝廷如獄吏、而其嫉之如仇讎。故其民極苦、而其君與大臣亦極危、如彼俄羅斯者、雖有虎狼之威於一時、而其國中實杌隉而不可終日也。是故君主立憲者、政體之最良者也。地球各國既行之而有效、而按之中國歷古之風俗與今日之時勢、又采之而無弊者也。(三種政體、舊譯為君主、民主、君民共主。名義不合、故更定今名。)
書き下し文
土地有り、人民の大地に立つ者、之れを國と謂ふ。世界の國に二種有り。一や君の主するが國と曰ひ、二民の主するが國と曰ふ。制度を設け、號令を施して以ちて其の土地の人民を治むること、之れを政と謂ふ。世界の政に二種有り。一や憲法を有ちたるが政《亦たの名は憲を立つるが政》と曰ひ、二憲法無きが政《亦たの名は專制の政》と曰ふ。一の定まりしが政治を采り、以ちて國民を治むるは、之れを政體と謂ふ。世界の政體に三種有り。一に曰く君主の專制とする政體、二に曰く君主の憲を立つるが政體、三に曰く民主の憲を立つるが政體。今日の全地球の強國と號稱ばるる者十數、俄羅斯の為す君主の專制とする政體、美利堅、法蘭西の為す民主の憲を立つるが政體の外を除かば、自づと餘の各國は則ち皆が君主の憲を立つるが政體なり。君主の憲を立つる者、政體の最も良き者なり。民主の憲を立つるが政體、其の政の方略を施さむとすれば、太だ數を變易へ、總統を選舉びたるが時、競爭は太いに烈しき、國家に於ける幸福は、未だ嘗て間に阻む力有らざることなし。君主の專制とするが政體、朝廷の民を視ること草芥の如し、而りて其れ之れを防むこと盜賊の如し。民の朝廷を畏るること獄吏の如し、而りて其れ之れを嫉むこと仇讎の如し。故に其の民は苦しみを極め、而りて其の君と大臣も亦た危うきを極む。彼の俄羅斯の如き者、虎狼の威は一時に有りと雖も、而りて其の國の中は實に杌隉れて日を終ゆる可からざるなり。是れ故に君主の憲を立てし者、政體の最も良き者なり。地球の各の國は既に之れを行ひて效有り、而りて之れを中國の歷古の風俗と今日の時勢を按れば、又た之れを采りて弊無き者なり。《三種の政體は、舊ての譯は君主、民主、君民共主と為す。名の義は合はず、故に更に今の名を定む。》