焚巣館

鳥が自ら巣を焚いたので、最初は笑っていた旅人も最後には声をあげて泣いた。
(易経 火山旅)

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立憲法議

民権と民主

現代語訳

 一般に国が民主制に変化するには、必ずそれを強制してやむを得ずそうさせるものである。英国(イギリス)人に植民地美属(アメリカ)を虐げないようにしていれば、今日の美国(アメリカ)は、まるで澳洲(オーストラリア)や加拿大(カナダ)のようであったであろう。法(フランス)王にその民を抑圧させなければ、今日の法国(フランス)は、まるで波旁(ブルボン)氏の朝廷のようであったはずだ。つまり君主を推戴したい者こそ、民権を興すに如かざるものはないのだ。英国を見ていないのか?

 英国とは世界中で民権が最も盛んな国であるが、民はその皇を父母のように愛している。英国の朝廷に過去の植民地美属(アメリカ)にあたったように自らの民にあたらせれば、いつかは英国も美国になっていたであろう。日本を観ていないのか。日本とは、亞洲(アジア)における民権のはじまりの国である。しかし民はその皇への敬意は、まるで天帝に対するようである。日皇が法国(フランス)の路易(ルイ)十四世が自らの民にあたるようにすれば、いつかは日本も法国(フランス)となっていたであろう。一方はうまくゆき、一方はうまくいかない、一方は繁栄し、もう一方は衰退する。君主たるもの、どちらを選ぶべきであろうか? 自らの君主を愛する者はどちらを選ぶべきであろうか?


漢文

 吾儕之昌言民權、十年於茲矣。當道者憂之、嫉之、畏之、如洪水猛獸然。此無怪其然也、蓋由不知民權與民主之別、而謂言民權者必與彼所戴之君主為仇、則其憂之、嫉之、畏之也固宜。不知有君主之立憲、有民主之立憲、兩者同為民權、而所以馴致之途、亦有由焉。凡國之變民主也、必有迫之使不得已者也。使英人非虐待美屬、則今日之美國、猶澳洲、加拿大也。使法王非壓制其民、則今日之法國、猶波旁氏之朝廷也。故欲翊戴君主者、莫如興民權。不觀英國乎。

 英國者世界中民權最盛之國也、而民之愛其皇若父母焉、使英廷以疇昔之待美屬者待其民、則英之為美續久矣。不觀日本乎。日本者亞洲民權濫觴之國也、而民之敬其皇若帝天焉、使日皇如法國路易第十四之待其民、則日本之為法續久矣。一得一失、一榮一瘁、為君者宜何擇焉。愛其君者宜何擇焉。

書き下し文

 吾儕(わなみ)の民權を昌(まこと)に言ふは、茲に於いて十年たれり。道に當たる者は之れを憂ひ、之れを嫉(にく)み、之れを畏れ、洪水猛獸の如くあり然(なむ)。此れ其の然るを怪むこと無きなり。蓋し民權と民主の別を知らざるに由り、而りて民權を言ふ者は必ず彼の戴かるる所の君主と仇に為ると謂(おも)ひ、則ち其れ之れを憂ひ、之れを嫉(にく)み、之れを畏るるなるは固より宜(むべ)なるかな。君主の立憲有らば、民主の立憲有り、兩(いづ)れの者も同じく民權を為し、而りて以ちて馴致(なぢみ)の途(みち)とさるる所も、亦た由(よし)有るを焉れ知らざればたりなむ。凡そ國の民主に變はるや、必ず之れに迫りて已むを得ずせ使しむる者(こと)有るなり。英人を使(し)て美屬を虐待するに非ざらしむれば、則ち今日の美國は、猶ほ澳洲、加拿大のごときなり。法王を使(し)て其の民を壓制するに非ざらしむれば、則ち今日の法國は、猶ほ波旁氏の朝廷(みかど)のごときなり。故に君主を翊戴せむと欲する者こそ、民權を興すに如くもの莫からむ。英國を觀ざるか。

 英國なる者は世界中の民權の最も盛りたるが國なり、而れども民の其の皇(みかど)を愛づること父母の若(ごと)く焉れあり、英の廷(みかど)を使(し)て疇昔(かつて)の美屬に待(あ)たりし者(こと)を以ちて其の民に待(あ)たらせしむれば、則ち英の美と為すは續久(ひさし)からむ。日本を觀ざるか。日本なる者は亞洲の民權の濫觴(をこり)の國なり、而りて民の其の皇を敬ふは帝天の若(ごと)く焉れあり、日皇の法國の路易第十四の其の民に待(あ)たるが如くすれば、則ち日本の法を為すは續久(ひさ)しからむ。一に得て一に失ち、一に榮へて一に瘁(おとろ)ふ、君と為る者は宜しく何を焉れを擇ぶべきか。其の君を愛づる者は宜しく何を焉れ擇ぶべきか。

付記

 準備中。

底本

立憲法議 - 中國哲學書電子化計劃