該隱盛怒
該隱カインサカリタル怒リ

攻而殺之

現代語訳

1亞当アダムと婦人の夏娃エヴァは寝室をともにし、懐妊して息子の該隠カイン〈該隠の訳は「得たる也」にあたる〉を生んで言った。「耶和華エホバが私を手助けしてから、私はすぐに息子を得られた。」
2ふたたび次の息子の亞伯アベルを生んだ。亞伯は羊を飼育し、該隠カインは田畑を耕した。
3ある日、該隠カインは土から産まれたものを携え、耶和華エホバに持っていった。
4亞伯アベル耶和華エホバに最初に生まれた羊と脂膏あぶらを持っていった。耶和華エホバ亞伯アベルばかりに振り向き、そして彼の祭祀を受け入れた。
5該隠カインには振り向かず、彼の祭祀を受け入れなかった。該隠カインは激しく怒り、顔色を変えた。
6耶和華エホバは言った。「これこれ、何を怒っておるのかね。顔色を変えるのはどうしてだ。
7もしお前が善を行っているなら顔を上げればよかろう。もし不善を行っているのなら罪は家門で待ち受けている。いずれにせよ、それは必ずお前に執着し続けるであろう。お前はそれを支配せねばならない。」
8その後、該隠カインは弟と語り合おうと畑の間までたどり着いたところで攻撃し、彼を殺した。○


漢文

1亞當與婦夏娃同室、懷妊生子該隱、〈該隱譯卽得也〉云、耶和華佑我、我卽得子。
2復生次子亞伯。亞伯牧羊、該隱耕田地。 3他日該隱攜土所產、以耶和華。 4亞伯奉耶和華以首生之羊與脂膏。耶和華眷顧亞伯、而歆其祭。 5不顧該隱、不歆其祭、該隱盛怒變色。 6耶和華曰、伊怒伊何、變色曷故。 7苟爾行善、豈不興起乎、苛行不善、孽伏於門、惟彼必繫戀於爾、汝爲之督。 8嗣後該隱與弟晤談、及至田間攻而殺之。○


書き下し文

1亞當アダムをみな夏娃エバへやを同じくし、懷妊はらみて子の該隱カインを生み、〈該隱カインの譯は得たる也とく〉云く、耶和華エホバは我をたすけたり。我は卽ちむすこを得たり、と。
2ふたたび次のむすこ亞伯アベルを生む。亞伯アベルは羊をやしなひ、該隱カイン田地はたけのつちを耕せり。
3他日あるひ該隱カインは土に產まるる所をたづさへ、耶和華エホバに以ちてす。
4亞伯アベル耶和華エホバたてまつるにはぢめの生まれの羊と脂膏あぶらを以ちてす。耶和華エホバ亞伯アベル眷顧ひいきし、而りて其の祭をく。
5該隱カインを顧みず、其の祭をけず、該隱カインは怒りを盛りてかほいろを變ふ。
6耶和華エホバ曰く、の怒りれ何ぞ、かほいろを變ゆるはなにの故ぞ。
7いやしくよろしきを行はば、豈に興起をこらむや。苛も不善よからぬを行はば、よこしまかどに伏す。惟に彼は必ず繫戀ひ、は之のみはりと爲るべし、と。
8ぎて後に該隱カインは弟と晤談かたりあはむとして田の間に至るに及び、攻めて之れを殺せり。○

七倍受罰

現代語訳

9耶和華エホバ該隠カインに問うた。「お前の弟はどこにいるのだ?」「知りません。私は弟の守護者でしょうか?」
10「お前はいったい何をしたんだ。お前の弟の血が声を発し、地から私に叫んでおるぞ。
11お前が弟を殺したことで、地の口は大きく開き、これによって彼の血を受けた。だからお前は呪われる。必ずこの土地を離れることになる。
12その後にお前は田畑を耕せども地は力を発揮せず、お前はこれから流離して定住することはない。」
13該隠カイン耶和華エホバに言った。「私は重い罰にかかったものだ。とても堪えられない。
14あなたは今に私を追放し、必ずこの土地から離し、二度と顔を見ることさえもなく、流離して定住の地を持たないのだから、おそらく私に出会った者は私を殺すでしょう。」
15耶和華エホバは言った。「あらゆる該隠カインを殺す者には、その七倍の罰を受けさせてやる。」こうして耶和華エホバは印誌を加え、彼に出会う者による彼への攻撃から免れさせた。○


漢文

9耶和華問該隱曰、爾弟何在、曰、不知、我豈防閑弟者乎。
10曰、爾果何爲、爾弟之血有聲、自地籲我。
11汝旣殺弟、地口逐張、以受其血、故爾見詛、必離斯土、
12厥後爾雖耕田、地不效力、爾將流離無定、
13該隱謂耶和華曰、我罹重刑、實所不堪。
14爾今逐我、必離斯土、不復覿矣面、流離無定、恐遇我者殺我、
15耶和華曰、凡殺該隱者、使其七倍受罰。於是耶和華加以印誌、免遇之者擊之。○


書き下し文

9耶和華エホバ該隱カインに問ひて曰く、の弟はいづこに在らむ、と。曰く、知らず、我は豈に弟を防閑まもる者なりや、と。
10曰く、よ、果たして何をか爲さむ。の弟の血に聲有り、地自り我にさけばむ。
11汝は旣に弟を殺し、地の口はおほいにひらき、以ちて其の血を受け、故にのろはるる、必ず斯の土を離るらむ、
12厥の後に爾は田を耕すと雖も、地は力を效こしめず、爾は將に流れ離れて定むること無からむ、と。
13該隱カイン耶和華エホバに謂ひて曰く、我は重きしをきかかり、まことに堪へざる所たり。
14なむぢは今ぞ我を逐ひ、必ず斯の土より離さむとし、復た覿ることあらざるかなつらを、流れ離て定むること無し、恐らく我に遇ふ者は我を殺さむ、と。
15耶和華エホバのりたまはく、凡そ該隱カインを殺す者、其れの七倍を使しをきを受けさしむ。是に於いて耶和華エホバは加ふるに印誌を以ちてし、之れに遇ふ者の之れを擊つを免るる。○

殺人自傷

現代語訳

16該隠カイン耶和華エホバから追放されて流離し、埃田エデンの東の挪得ノドの地に向かってそこに住むことになった。
17該隠カインと妻は寝室をともにし、懐妊して息子を生んだ。以諾エノクと命名したのは、その時に城垣を建てていたことから、息子の名はそこから呼称したものである。
18以諾エノク以臘イラドを生み、以臘イラド米戸雅利メフヤエルを生み、米戸雅利メフヤエル馬土撒利メトシャエルを生み、馬土撒利メトシャエル拉麦レメクを生んだ。
19拉麦は妻を二人めとった。ひとりの名は亞大アダ、もうひとりの名は洗拉ツィラ
20亞大アダ雅八ヤバルを生み、テントに住んで牧畜をする者の先祖となった。
21次に猶八ユバルを生み、太鼓や琴、品や簫といった楽器演奏者の先祖となった。
22洗拉ツィラ土八該隠ドバルカインを生み、銅や鉄の工芸師となり、娘を生んで拿馬ナアマと名付けた。
23拉麦レメクは妻の亞大アダ洗拉ツィラに言った。「拉麦レメクの婦人よ、必ず我が声を聞き、必ず我が言葉に従え。私は我が人を殺して自らをも傷つこう。童子を戮して自らも傷つこう。
24該隠カインを殺して必ず七倍の罰を受けるのならば、拉麦レメクを殺せばその者の受ける罰は七十七倍とならぬことがあろうか?」○


漢文

16該隱逐離耶和華、往埃田東、挪得地居焉。
17該隱與妻同室、懷妊生子、命名以諾、又建城垣、卽以子名稱之。
18以諾生以臘、以臘生米戶雅利、米戶雅利生馬土撒利、馬土撒利生拉麥。
19拉麥娶妻二、一名亞大、一名洗拉、
20亞大生雅八、爲居幕牧畜者祖。
21又生猶八、爲鼓琴品簫者祖。
22洗拉生土八該隱、爲銅工鐵工之師、生女名拿馬。
23拉麥謂妻亞大與洗拉曰、拉麥之婦乎、必聞我聲必聽我言、我殺人而自傷、戮童而自痍。
24若殺該隱必七倍受罰、則殺拉麥其受罰也、非七十有七倍與。○


書き下し文

16該隱は耶和華エホバより逐はれ離れ、埃田エデンの東の挪得ノドの地に往きてここに居まはむ。
17該隱カインと妻はいへを同じくし、懷妊はらみて子を生み、みことのりして以諾エノクと名づけしむるは、又た城のかきねを建て、卽ち以ちて子の名は之れをふ。
18以諾エノク以臘イラデを生み、以臘イラデ米戶雅利メホヤエルを生み、米戶雅利メホヤエル馬土撒利メドサエルを生み、馬土撒利メドサエル拉麥レメクを生む。
19拉麥は妻のふたりを娶る。かたやの名は亞大アダこなたの名は洗拉チラ
20亞大は雅八ヤバルを生み、幕にすまひてけものやしなふ者のおほみおやと爲る。
21又た猶八ユバルを生み、鼓琴品簫たまひびきの者のおほみおやと爲る。
22洗拉チラ土八該隱トバルカインを生み、あかがねてひとくろがねてひとかしらと爲り、女を生みて拿馬ナアマと名づく。
23拉麥レメクは妻の亞大アダ洗拉チラに謂ひて曰く、拉麥レメクつまや、必ず我が聲を聞き、必ず我がことばしたがふべし。我は人を殺して自ら傷つき、わらべころして自らきづつく。
24若し該隱カインを殺して必ず七倍のしをきを受くるならば、則ち拉麥レメクを殺さば其れしをきを受くるや、七十有七倍に非ざるか、と。○

耶和華之民

現代語訳

25亞当アダムがまたも妻と寝室をともにし、息子を生んでセトと命名した。かつて該隠カイン亞伯アベルを殺し、今の上帝が新たに我が子を賜ったことで彼の代わりにしたのだと云われる。
26セトも息子を生み、以哪士エノシュと名付けた。思うに人はこの時になって初めて耶和華エホバの名で呼びかけるようになったと云われている。〈「思うに人は」の二句について、ある書には「思うに人はこの時に初めて耶和華エホバの民と称するようになったと云われている」とも記されている。〉


漢文

25亞當復與妻同室、生子命名曰設、云、昔該隱殺亞伯、今上帝更賜我子以代之。
26設亦生子、名以哪士、蓋人於是時、始籲耶和華名云、〈蓋人二句或曰蓋人是始稱爲耶和華之民云〉


書き下し文

25亞當アダムは復た妻と與にいへを同じくし、子を生みてみことのりし、名づけてセツと曰ふ。いはく、かつ該隱カイン亞伯アベルを殺し、今の上帝かみあらたに我が子を賜はりて以ちて之れに代ゆ。
26設も亦たむすこを生み、以哪士エノスと名づく。蓋し人の是の時に於けるは、始めて耶和華エホバの名をふと云へり。〈蓋し人にのふたつことばあるふみに曰く、蓋し人は是に始めてひて耶和華エホバの民と爲すと云へり〉

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