荀子 小歌
本文
漢文
念彼遠方 何其塞矣
仁人絀約 暴人衍矣
忠臣危殆 讒人服矣
琁玉瑤珠 不知佩也
雜布與帛 不知異也
閭娵子奢 莫之媒也
嫫母刁父 是之喜也
以盲為明 以聾為聰
以危為安 以吉為凶
嗚呼上天 曷維其同
書き下し文
彼の遠き
何ぞ其れ塞がれり。
琁玉瑤珠、
雜布と
之の
母を
是れ之の喜びなり。
現代語訳
はるか遠くのことを想うたところで、
さてはまったくの行き止まり。
仁人は小さく追いやられ、
ならず者がひろがる。
忠臣が危機に陥り、
へつらう者が職を得る。
翡翠や真珠が
帯玉になることさえわからず、
そこらの布と錦が
異なるものだとわかりもしない。
よき男とよき女がいても
奴らが仲介することはない。
母親を醜くして父親を狡猾にすること
――それこそが奴らのよろこびだ。
目の見えぬことを開明だと言い、
耳の聞こえぬことを聡明だと言う。
正しいことを間違いだと言い、
幸運を不運だと言う。
ああ、遥かなる天よ!
こんな奴らと一緒にいられるか!
付記
荀子の賦篇に小歌として掲載された詩歌。荀子その人の作とされる。同篇にはまず荀子自作の賦5篇、詩1篇が掲載され、そこで弟子からこれらの賦詩を要約した"反辞"を求められる。そこで荀子が小歌と称して贈ったものが本作である。韓詩外伝や戦国策にも同じ歌がすこし字句を変えて掲載されており、そちらでも荀子の作だとされている。
底本
改易
力→刁