荘子 鳳兮鳳兮

 

本文

漢文

鳳兮鳳兮 何如德之衰也
來世不可待 往世不可追也

天下有道 聖人成焉
天下無道 聖人生焉
方今之時 僅免刑焉

福輕乎羽 莫之知載
禍重乎地 莫之知避

已乎已乎 臨人以德
殆乎殆乎 畫地而趨
迷陽迷陽 無傷吾行
吾行卻曲 無傷吾足

書き下し文

おほとり おほとりよ、
何如 いかでか德の衰へたるや、
來たる世は待つ可からず、
往きし世は追ふ可からざるなり。

天下 に道有らば、
聖人 ひじり ここに成らむ。
天下 に道無くも、
聖人 ひじり ここに生まれたるも、
まさに今の時、
僅かに しをき ここに免る。

さいはひは羽より輕く、
之の載せるを知るもの莫し。
わざはひは地より重く、
之の避くるを知るもの莫し。

已みなむ已みなむ、
人に臨むに德を以ちてするは。
殆うきかな殆うきかな、
地を畫りて趨るは。
まぬけ ふり まぬけ ふり
吾が あゆみを傷ふこと無かれ。
吾が あゆみ ひねり曲がるも、
吾が足を傷ふこと無かれ。

現代語訳

鳳凰よ、太平の世に現れるはずの瑞鳥よ。
あんたらしくないものだ。
これからの世界に期待はできないし、
これまでの世界を追いかけることもできない。

天下に道があればこそ、
聖人は完成するのだ。
天下に道がなくとも、
聖人は生まれるが、
まさに今のそんな時代には、
なんとか刑を免れる程度のもの。

幸福は羽根より軽いのに、
それを拾う者はいない。
災禍は大地より重いのに、
それを避ける者はいない。

やめとけ、やめとけ、
徳なんてモノで人々に接しようとするのは。
あぶないぞ、あぶないぞ、
大地に境界を引いて駆け回るのは。
キチガイのふり、キチガイのふり、
自分の歩みをダメにしてはならぬ。
自分の歩みが曲がりくねったとしても、
自分の足をダメにしてはならぬ。

付記

 荘子人間世から。論語微子十九に掲載された歌の長篇版。この歌が次節で有名な「無用の用」につながる。その部分も詩歌に含めることが多い。

底本

莊子- 中國哲學書電子化計劃