呂氏春秋 龍蛇歌

 

本文

漢文

有龍于飛 周遍天下
五蛇從之 為之丞輔
龍反其鄉 得其處所
四蛇從之 得其露雨
一蛇羞之 橋死於中野
懸書公門 而伏於山下

書き下し文

龍に きて飛ぶもの有り。
めぐりて天下を あまねくす。
いつたりの蛇は之れに從ふは、
之の丞輔 たすけをせんが ため
龍の其の くに かへりたるは、
其の る所を得たればなり。
四の蛇は之れに從ひ、
其の露雨を得たるも、
一の蛇は之れを ぢ、
わたりて なかばの野に死す。
書を公門に懸け、
而りて山下に伏す。

現代語訳

どこまでも飛ぶ龍がいて、
ぐるりと天下をまわりつくした。
五匹の蛇が彼に従う。
彼の助けとなるために。
龍は自身の故郷に帰った。
自分の居場所を手に入れたから。
四匹の蛇も彼に従い、
その多大な恩恵に与るが、
それを恥じた一匹の蛇は、
橋の向こうで野垂れ死んだ。
書を公門に掲げ、
そして山のふもとに隠れてしまった。

付記

 呂氏春秋で紹介される晋文公重耳の逸話に登場する詩。中国全土の放浪を経て晋公となった重耳の旅路をともにした介子推についての歌である。彼は旅を終えて晋公に就いた重耳と彼からの恩賞に目を細める旅の仲間に対して反発し、国を出て野垂れ死んだ。

 ちなみに、史記にも同じ場面が描かれ、そこでも本詩と同様に重耳と子推を龍と蛇に譬える龍蛇歌が登場するが、文言がまったく違っている。

底本

呂氏春秋- 中國哲學書電子化計劃